封印された手紙と差押命令
差押の朝に訪れた依頼人
まだ薄暗い朝、事務所のドアベルが乾いた音を立てた。 いつもなら午前九時を過ぎてから来る来客が、今日は異様に早い。 戸口に立っていたのは、地元でも知られた資産家の未亡人、村岡エツコだった。
開かずの机と借金の噂
「夫が残した机の中に、大事な書類があるはずなの」 エツコは、半ば泣きながら語った。借金の差押命令が届き、その資産目録が必要だという。 しかし問題は、その机が彼女にも開けられず、鍵も所在不明だということだった。
手紙はどこへ消えたのか
差押対象として資産を記した書類が必要で、机の中に「遺書のような手紙があった」と彼女は主張した。 しかし、開かない机では証明もできず、差押執行日は迫る一方。 仕方なく、私は現地調査と称して屋敷へ向かうことにした。
被差押人が残した謎のメモ
屋敷は古く、まるでサザエさんの磯野家のような木造の香りがした。 応接間には、確かに重厚な机があり、引き出しには「M」とだけ書かれた古びたメモが残されていた。 それを見たエツコの顔色が一瞬変わったのを、私は見逃さなかった。
サトウさんの冷たい推理
事務所に戻ると、サトウさんが無言でコーヒーを机に置いた。 「その机、二重底だったりして」と、彼女がつぶやいた。 それはまるで怪盗キッドのトリックのようだったが、私は思わず背筋を伸ばした。
実は知られていなかった家族の存在
村岡家には、かつて勘当された養子がいたという話を、登記簿で知った。 その養子が残した可能性のある手紙が、何かを語っているのではないか。 「遺言」ではなく「真実」を伝えるためのものだったのかもしれない。
司法書士の勘違いとうっかり
私は書類の受領書を間違えて別の事件の封筒に入れてしまい、サトウさんに怒られた。 「またですか…」と、呆れた顔で書類を取り返される。 やれやれ、、、事務所の空気が凍りつく瞬間だ。
誰が封をしたのか
屋敷に戻った私は、再び机を調べた。 引き出しの底板を軽く叩くと、コンと音が違う箇所がある。 釘を外して底を開けると、中から封のされた茶封筒が出てきた。
隠された封筒と不自然な押印
封筒には見慣れない朱色の印が押されていたが、明らかに「印鑑登録されたものではない」ものだった。 内容は「本当の相続者に渡してほしい」という手紙と、不動産の権利証だった。 これは公的手続きでは使えない、しかし極めて人間的な告白だった。
法務局からの電話が動かした歯車
「村岡家の名義人変更申請が出されましたが、不備がありまして…」 法務局からの電話は、状況を一変させた。 封筒の中の書類を出したのはエツコではなかったのだ。
遺言と見せかけたもう一通の書類
サトウさんが目を細めながら言った。 「たぶん偽造ですね、それ。筆跡も違いますし」 怪盗ルパンもびっくりの大胆さだったが、それが現実に目の前にあった。
やれやれ、、、書類より重い真実
私はそのまま内容証明郵便の文案を作りながら、ため息をついた。 「人間関係ってやつは、法務局の書類よりよっぽど複雑だ」 やれやれ、、、司法書士に必要なのは法律より洞察かもしれない。
意外な人物の登場と告白
夕方、屋敷に現れたのは村岡エツコの義妹だった。 彼女が告げたのは、「封筒を隠したのは自分」であるという事実。 理由は、兄の遺志を守るためというが、それが本当に本人の意志だったのかは不明だった。
一通の手紙が示した真犯人
封筒に添えられていた一枚の写真が決め手となった。 そこに写っていたのは、差押命令を出した債権者と村岡家の義妹が、何かを取引する場面だった。 事件は、書類ではなく写真が解決したのだった。
差押命令の裏で動いた人間関係
私は報告書に淡々と経緯を書きながら、冷めたコーヒーをすすった。 差押命令という言葉の裏に、こんなにも感情が渦巻いているとは思わなかった。 やはり、司法書士に必要なのは事務処理能力だけではない。
事件の終息とサトウさんの冷笑
「で、次の依頼は、離婚協議です」 サトウさんの塩対応は、いつもと変わらず乾いていた。 私は背もたれに体を沈めながら、心の中でつぶやいた。「やれやれ、、、休ませてくれよ」