事件の発端は一通の電話から
土曜の昼下がりに鳴った内線
事務所に鳴り響いた内線のベル音が、静かな昼下がりを破った。時計は14時を指していた。外は小雨、来客もなく、久しぶりに書類の山を少し片付けられるかと思っていた矢先だった。
依頼人は急ぎの登記変更希望
電話口の男は焦っていた。「明日までに何とか登記変更を」と言うが、事情を聞けば聞くほど、無理がある。そもそも日曜に法務局は開いていない。「あのぉ…土日は休みなんですけど」そう告げると電話は乱暴に切られた。
書類の中に潜む違和感
売買契約書の日付に見る謎
届いた資料の束に目を通していると、売買契約書の日付が妙だった。登記申請予定日より一週間後の日付が記されていたのだ。どうやらタイムトラベルでもしてきた契約書らしい。
登記原因証明情報の不備
さらに原因証明情報を確認すると、売主の氏名の漢字が微妙に異なっていた。「崎」が「﨑」になっているレベルではなく、別人レベルだ。登記の終わりが事件の始まりというのは、まさにこのことか。
サトウさんの冷静な観察眼
チェック欄の一つに気づく
「この申請情報、過去に似たものがありました」サトウさんが指差したのは、電子申請履歴の一部だった。確かに、不自然な接続元から、同一物件に対する申請が二度行われている。
いつも通りの塩対応と的確な指摘
「どうせ確認しないと思ったので、先に見ておきました」そう言って、申請のスクリーンショットまで添えてきた。「やれやれ、、、」と呟きながらも、彼女の冷静さには頭が上がらない。
現地調査と謎の空き家
現場には誰もいない
早速、該当物件へ足を運ぶ。玄関は閉ざされ、郵便物が溢れ返っていた。窓から覗いてみるが、誰もいない様子。電気メーターも止まったままだ。
表札と登記簿のズレ
ふと目をやると、表札にある名前が登記簿と違っていた。売買されたはずの物件に、なぜ元の所有者の表札が?これはただのミスではない。何かが隠されている。
消えた売主と別人の署名
印鑑証明書の不自然な発行地
印鑑証明書の発行地が遠方だった。しかもそこは、以前にも不動産詐欺で名を馳せた自治体だ。いよいよ雲行きが怪しい。
筆跡の違いが導く真実
サトウさんが筆跡鑑定アプリを使い、申請書の署名と契約書の署名を比較した。「似て非なる、ですね」彼女はそう言って、まるで名探偵コナンのように核心を突いた。
土地家屋調査士からの密かな情報
調査士が見た違法な境界杭
旧知の調査士に連絡すると、件の土地には不自然な境界杭が打たれていたという。しかも、その杭は正式な測量ではなく、誰かが勝手に動かしたような形跡があるとのこと。
図面と現地の決定的な差
送られてきた図面と現地写真を見比べると、敷地の面積が明らかに拡張されていた。つまり、不法占拠の上での登記変更だったということだ。
閉ざされた法務局の記録室
登記官の過去と処分履歴
法務局の知り合いに連絡を取り、裏口からこっそりと記録室へ入ると、過去にこの物件の登記を担当した職員の処分歴が見つかった。過去にも虚偽申請を見逃していたらしい。
ミスか故意か 書き換えられた登記
登記情報の変更履歴には、実際には行われていない申請内容が登録されていた。「これは操作されてるな」と確信するには十分だった。
登記申請の裏に潜む動機
不正取得と借地権の罠
物件は地主との借地契約上にあり、売主が所有者ではなかった可能性が出てきた。つまり、存在しない権利を他人に売ったという典型的な詐欺だった。
被害者の存在と沈黙の理由
実際の所有者に話を聞くと、「脅されて口止めされていた」と語る。その背後には、地元の建設業者との癒着の影があった。
サトウさんの最後の一言
たった一枚の写しが鍵になる
「これで決まりですね」とサトウさんが差し出したのは、以前の所有者が保管していた古い登記事項証明書だった。その記載こそが、偽装を証明する決定打となった。
彼女の塩対応に隠された優しさ
「少しくらい褒めてくださいよ」と言いながらも、紅茶を差し入れてくれるあたり、彼女なりの優しさなのかもしれない。まあ、塩対応は変わらないけど。
シンドウの推理と逆転劇
登記が示した犯行の証拠
結局、偽装登記を行った不動産業者は詐欺罪で逮捕された。決定的な証拠は、登記簿の中に残されていた微細な修正ログだった。まさに登記簿が語った“死”である。
登録免許税が語った真相
支払われていた登録免許税が、実際の評価額に対して異常に低かった。それにより、真実の売買価格が嘘だったことが明らかになった。金額が真相を語っていたのだ。
やれやれの結末とその後
警察への通報と司法書士の責任
すべてをまとめて警察に提出し、司法書士としての報告義務も果たした。少しでも手を抜いていたら、こちらの責任問題になっていたかもしれない。ゾッとする。
再び静けさを取り戻す事務所
事件が片付き、ようやく事務所には静けさが戻った。「やれやれ、、、」と深く息をついた時、またも内線が鳴る。「次は何の事件ですかね」サトウさんの声が、少しだけ楽しそうだった。