空家に横たわる真実

空家に横たわる真実

空家に横たわる真実

静かな住宅街にぽつんと佇む一軒家。数年前から誰も住んでいないはずのその空家で、男の死体が発見された。
日差しが強く照りつける昼下がり、俺はいつものように事務所で書類に埋もれていたのだが、一本の電話がすべてを変えた。
「司法書士の先生、ちょっと来てもらえませんか。空家で変なことが起きまして…」

朝の連絡は一本の電話だった

管理会社からの妙な依頼

電話の相手は地元の不動産管理会社の担当者だった。彼は浮足立った声で「死体が出た」と言った。
普通なら警察沙汰で終わる話だが、その家が相続未了で所有者が不明だという。
「登記上の名義は15年前に亡くなった方のままでして…司法書士さんの出番かと」

空家で死体が見つかりました

「やれやれ、、、」と俺は心の中で呟いた。警察より先に呼ばれる司法書士って、サザエさんでいえば波平が大工仕事してるレベルで場違いだ。
けれど依頼が来た以上、断るわけにもいかない。どうせまた、放置された登記のせいで揉める話だろう。
俺はサトウさんに現場同行を頼んだ。彼女の返事は素っ気ない「了解です」の一言だった。

現場に向かうしかない理由

登記簿上の所有者はすでに死亡

現地に到着すると、黄色い規制線と警官の姿があった。近隣住民が「臭いがおかしい」と通報したらしい。
中から発見されたのは50代くらいの男性の遺体。だがこの家の名義人はすでに他界しており、その相続も完了していない。
「この遺体、誰なんでしょうね」とつぶやくサトウさん。俺の頭は、相続人の構成と登記記録の記憶でぐるぐるしていた。

相続登記が放置されたままの空家

この物件、調べてみると相続人は5人。うち2人は行方不明で、1人は海外在住。残る2人も音信不通だ。
結局、誰がこの家を管理するかも曖昧なまま、数年が経っていた。そんなところに死体が出たのだ。
サトウさんが「一人で勝手に入れるわけないですよね」と冷静に言う。確かに不法侵入が濃厚だが、何かが引っかかる。

サトウさんの塩対応と冷静な分析

「こういうの、また面倒なパターンですね」

サトウさんが検死官と警察の話をメモしている。死因は首を絞められた形跡があり、他殺の可能性が高いという。
だが室内には争った形跡はなかった。つまり顔見知りの犯行か、あるいは…。
「被相続人の甥が、以前この家に無断で住もうとしてたって話があります」と彼女が冷静に言う。俺より調べてるじゃないか。

紙の遺言と破られた封筒

押入れの中から古びた封筒が見つかる。そこには手書きの遺言書と、半分破られた印鑑証明が。
どうやら被相続人が生前、特定の相続人にこの家を残したいという意思を書き残していたらしい。
だがその相続人は、すでに3年前に亡くなっていた。つまり遺言の効力はない。家をめぐる争いはすでに泥沼化していた。

登場人物が多すぎる相続人

兄弟姉妹と疎遠な甥と姪

相続人のひとりが語った。「あの家は昔から問題の種だったんですよ。誰も住まないし、誰も手放さない」
遺産相続において、感情は法より強い時がある。俺たち司法書士はその現場で、常に冷静を装うしかない。
だけど、血の繋がりが薄くなった今、遺産目当ての行動がどこか不気味に見える。

現場に残された不可解な印鑑証明

なぜ死体の近くにあったのか

死体の傍には、偽造された印鑑証明のコピーが落ちていた。住所は確かにこの空家のものだが、実際の名義人とは違っていた。
「誰かがこの家を、無断で自分のものにしようとしていたのかもしれません」とサトウさんが冷静に言う。
その通りだ。もし偽造された委任状と登記申請書が法務局に出されていたら…と思うと背筋が冷える。

遺産をめぐる静かな争い

「誰も住んでない家」の裏側

近隣住民が語った。「最近、夜に灯りがついてたんです。誰かが勝手に住んでたんじゃないかと」
遺産争いの中、誰かが既成事実を作ろうとした可能性がある。そこに現れたもう一人の「相続人」…。
そして何らかの口論の末に、死体となったのではないか。だが決定的な証拠が足りない。

決定打は相続放棄の時期

日付の矛盾を追い詰める

サトウさんが気づいた。「この人、2年前に家庭裁判所で相続放棄してます」
つまり、死体の男にはこの家を相続する資格はなかった。にもかかわらず、彼はなぜ住もうとしていたのか。
答えは簡単だった。「相続人のふりをして、名義を奪おうとしてたんですね」と彼女は言った。まるでルパン三世みたいに。

死体の正体と動機の核心

司法書士の視点で暴かれる真実

事件の裏には、偽造委任状による不正登記未遂があった。死体の男は他人の名義を奪おうとしていた詐欺師だった。
彼が接触した真の相続人の一人が、それに気づき問い詰めた。そしてもみ合いの末に…。
その相続人は罪を認めた。「こんなことになるなんて思わなかった…」と呟いた声が耳に残った。

事務所に戻って冷めたコーヒー

「もう少し楽な仕事ないですかね」

事務所に戻ると、冷めたコーヒーと溜まった書類が出迎えてくれた。俺は椅子に沈みながら言った。
「やれやれ、、、殺人事件の後に、相続放棄の書類確認とはね」誰にも聞こえない独り言。
サトウさんは書類を無言で差し出した。表情は変えず、ただひとこと、「署名お願いします」

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓