転用許可と封じられた真実

転用許可と封じられた真実

午前九時の転用許可申請

その朝、事務所のドアが開いたとき、俺はすでに3件の電話と1件の苦情に頭を抱えていた。そんな中、スーツ姿の中年男性が地図を持ってやってきた。話を聞けば、古い畑を駐車場として使うための転用許可を申請したいという。

土地の名義も本人のもので、法的には問題なさそうだった。ただ、やけに申請を急いでいる様子が気になった。

「何か急ぐ事情でも?」と訊くと、「いや、ただちょっと駐車場が足りなくてね」と曖昧な笑顔。そんな笑顔が一番信用できないと、俺の胃がつぶやいた。

名義人の違和感と沈黙

登記簿謄本を見る限り、名義人に間違いはなかった。ただ、その人物の過去の登記履歴を調べると、過去に名義変更の直前で申請が止まった形跡がある。

その理由を訊いても、「覚えていませんよ、そんな昔のこと」とまた曖昧な笑み。やれやれ、、、こっちは記録の鬼なんだよ。

その曖昧さに、なにかひっかかるものがあった。

敷地境界とひとつの質問

「この地図、どこで手に入れましたか?」と俺が訊くと、「市役所で」と即答。だが、その図面には最近では見かけない旧式の印影があった。

それは十年以上前の形式だった。つまり、この図面は過去に誰かが使った転用申請の名残なのかもしれない。

ふと、ある仮説が頭をよぎった。土地はもともと誰のもので、なぜ途中で申請が止まったのか?

矛盾した土地利用の履歴

俺は法務局に電話して過去の地目変更の履歴を確認した。やはり、同じ敷地について二度、用途変更の相談があった形跡がある。

しかも、一度目の相談者は今回の依頼人と名字が同じだった。親子か、あるいは兄弟か。

土地というのは、使い方よりも「誰がどう使おうとしたか」の方がドラマが詰まってる。

古い図面とサトウさんの直感

「この線、ちょっとおかしくないですか?」と、コーヒーを持ってきたサトウさんが言った。

俺が拡大コピーした図面を一瞥しただけで、境界線のズレを見抜いた。さすが俺の右腕、というより右脳だ。

「これ、意図的に書き換えられてますね」と彼女。おいおい、こっちは朝から胃が痛いのに、、、

妙に正確すぎる境界線

測量士が手を抜いたのかと思ったが、線は逆に異常なまでに正確だった。公図とのずれもなく、ミリ単位で調整されていた。

つまり、誰かが“完璧に”工作したということだ。

素人ではない。おそらく元職の人間だ。そうなると話は一気に重たくなる。

相談者の声と嘘の匂い

依頼人の口調は丁寧だったが、話すたびに論理が少しずつズレていく。転用理由が「近所の人に頼まれて」であったり、「会社の都合で」となったり。

「その駐車場って、使う人決まってるんですか?」という問いには明確に答えなかった。

これは確実に何かを隠している。理由を聞くより、証拠を探した方が早い。

転用理由は誰のためか

数日後、近隣の住民に聞き込みをしていたサトウさんが戻ってきた。

「あの土地、昔は近所の母子が住んでた家だったみたいですよ」と彼女が言う。火事で焼けて空き地になった後、長らく手つかずだったとか。

その母子の話を町の古い人が避けるように話すのが、妙に気にかかった。

不動産会社の役員が語らなかったこと

調べると、依頼人は地元の不動産会社の元役員だった。表向きは退職しているが、裏で動いている形跡がある。

あの土地の登記には、その会社の旧社員の委任状が一度提出されかけて却下された記録がある。

つまり、あの土地には一度、「隠された名義変更」があったということだ。

昔の地目変更に潜む動機

調査を進めるうちに、火事の原因が「放火」であったこと、その事件は未解決であったことがわかった。

放火の容疑者として噂されていたのが、なんと今回の依頼人の兄だった。動機は、土地を売るため。

やれやれ、、、冗談じゃない。これ、ただの転用申請じゃなくて、遺恨と犯罪の再燃じゃないか。

登記簿の片隅にあった名前

法務局の保存ファイルの片隅に、旧名義人の委任状コピーがひっそりと残っていた。

そこに記されていた名前は、かつて焼け落ちた家の母親の名だった。

その日付は放火事件の数週間前。つまり彼女は、自らの土地を正式に移転しようとしていた。

封じられた名義変更と一通の委任状

その委任状の宛先は、今回の依頼人の兄ではなく、第三者の司法書士だった。

なぜそれが実行されず、放火事件が起き、家も人も消えたのか。全ての線が、今つながった。

あの申請は、「合法的に転用する」ための偽装だったのだ。

真実を語るべき相手

証拠書類をまとめ、俺は意を決してその男に会いに行った。旧社員の名義を出し抜こうとしていた事実を突きつけると、男は観念したように黙り込んだ。

「なぜ、今になってこんなことを?」と問うと、「あの土地を売らないと、兄が出所してまたやる。だから、、、」とポツリと漏らした。

正義と防衛の境界は、時に曖昧だ。だが俺たちの仕事は、それを“書面の上で”明らかにすることだ。

やれやれ、、、俺が行くしかないか

「全部記録に残します。闇じゃなく、紙で残しましょう」と俺は言った。

サトウさんは無言で頷き、いつものように書類を手に取った。

やれやれ、、、次はもうちょっと平和な相続相談を頼むよ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓