印鑑証明一枚で狂う司法書士の一週間
「たかが印鑑証明、されど印鑑証明」。そんな言葉が胸に突き刺さった週がありました。たった一枚の紙が揃っていないだけで、予定していた案件は全部後ろ倒し。関係者には謝罪の電話、取引先からの視線も厳しくなる。自分の準備不足と確認ミスに情けなくなり、今でもその週のカレンダーを見ると胃がキュッとなります。地方の小さな事務所、スタッフも最小限。そんな現場で起きた、印鑑証明一枚の欠如によるドミノ倒しのような一週間の話です。
予定通りに進むはずだった月曜の朝
その週の月曜日、私は早朝から「今日はスムーズにいきそうだ」と根拠のない自信を持って事務所に入りました。依頼者との打ち合わせも順調で、午後から予定していた登記申請の準備にも余裕があったんです。ところが、提出書類の確認の際、依頼者が「印鑑証明?あれ出してなかったっけ?」と。そこで一気に血の気が引きました。
完璧な段取りが崩れる瞬間
登記に必要な印鑑証明書、それがない。申請は当然できませんし、書類はそのまま持ち帰り。依頼者に「至急取ってきてもらえますか」と言っても、「あれって役所行かないといけないんでしょ?今週出張で…」と。こちらではどうにもならない事情。つまり、登記は数日ずれ込むというわけです。ここで一つ狂えば、他の案件にも影響するのがこの仕事の厄介なところなんです。
「あ 印鑑証明…出てない」冷や汗の一言
その一言が聞こえた瞬間、頭の中が真っ白になりました。思い返せば、最初のヒアリングで「ご自身でご準備ください」とは伝えていた。でも、どこかで「言ったから大丈夫」と思い込んでいた自分の甘さがあったんでしょう。確認不足、詰めの甘さ、自業自得。その日は何も手につかず、空回りのまま夕方を迎えました。
客先の不信感とこちらの焦燥
登記申請が遅れるということは、当然相手方にも影響が出ます。不動産売買のスケジュールがずれれば、引渡しや融資の日程にも影響が。売主も買主も、そして不動産会社もピリピリし始めます。「司法書士の段取りが悪い」と言われかねない状況に、胃がキリキリしてきました。
クライアントにとっては小さなこと
依頼者にとっては、「印鑑証明ぐらい、後で出せばいいでしょ?」くらいの感覚。でも、我々にとっては「それがないと何も始まらない」ほど重要。とはいえ、それを強く言うと相手に引かれてしまう。なんともやるせない立場です。「手続き屋」と思われがちな職業ですが、信用商売でもある以上、小さな行き違いが命取りなんですよね。
でも司法書士にとっては信用問題
司法書士が「抜けがありました」なんて言えば、それだけで信頼はガタ落ち。たとえ相手の責任でも、こちらの落ち度に見える。そんな空気を感じながら、私は平謝りするしかありませんでした。「次からはもっとしっかりご案内しますので…」と。なんとも情けない数日間でした。
自分を責める時間が一番長い
他人から怒られるより、自分の中での後悔や反省が一番つらい。寝る前に「あの時もっと丁寧に確認していれば」と考えてしまう。こんな夜があると、司法書士なんてやめたくなる瞬間すらあります。だけど、やめたところで食っていける自信もない。地方で独身の45歳、モテない元野球部が再就職したところで…ね。
落ち込む夜 コンビニ帰りの独り言
夜9時、晩飯も作る気になれずコンビニの弁当を買って帰る。誰にも愚痴れず、缶ビール片手に「なんで俺ばっかり…」なんて独り言を漏らす。事務所の電気がまだついてるのを見ると、「ああ、また明日もここに戻ってくるのか」と重たい気持ちになる。世間はそんなに司法書士に興味ないけど、こっちは命削ってやってるつもりなんです。
誰も責めないけど誰も助けてくれない
結局、自己責任の世界。依頼者も不動産会社も、誰かを責める気はない。でも同時に、誰も助けてはくれない。ミスをした自分が悪い、それだけ。そんな孤独な構図の中で、自分なりに気持ちを整理していくしかないのです。笑われても仕方ない。でも、それでも頑張っている人たちに、この気持ちはきっと伝わると思います。
事務員さんのありがたみが身にしみた
こんな週に限って、事務員さんが体調不良でお休み。普段どれだけ彼女に支えられていたか、身に染みました。日頃の確認作業やダブルチェックの大切さは人に声をかけられることの安心感も。独りでやる仕事は効率も落ちるし、気持ちも沈みます。改めて「一人では仕事は回らない」と痛感しました。
一人じゃどうにもならない現実
どれだけ自分が完璧にやってるつもりでも、人の手がなければカバーできない場面ってあるんです。司法書士はなんでも一人でこなすイメージがあるかもしれませんが、事務作業から書類管理まで、一人じゃ限界があります。今回のミスだって、もう一人いれば防げたかもしれない。そう思うと、日頃の感謝が倍増します。
ミスは責任じゃなくて仕組みの不備
今回の件で学んだのは、誰が悪いとかじゃなく、そもそもの「仕組みが甘い」ということ。責任を追及するより、「どうすれば同じミスを防げるか」に意識を向けるべきだったと反省しました。冷静になってから見直すと、「これは自分だけの問題じゃないな」と思えるようになりました。
再発防止策という名の自分なりの工夫
そんなわけで、私は新しい「確認ルール」をつくることにしました。依頼者に渡す資料には、必要書類にチェックを入れて、最後に「印鑑証明、取得済みですか?」の欄を追加。今さらかもしれませんが、こういう地味な工夫が大きな事故を防ぐんですよね。完璧は無理でも、改善はできる。その一歩です。
チェックリストとふせん地獄
事務所の壁という壁にふせんを貼りまくる毎日。チェックリストにペンで二重線を引いて、完了印を押して、自分でも笑っちゃうくらい厳重。でも、それくらいしないと忘れるんです。完璧主義じゃない自分を認めつつ、それでもなんとかやっていく。ちょっと情けないけど、背伸びしてもしょうがないから。
結局 手書きが一番信頼できる
スマホのリマインダーより、パソコンのタスクより、やっぱり手書きのメモが一番頼りになる。手に馴染んだボールペンと、毎日使ってるノート。昭和生まれの自分には、デジタルよりアナログの方が性に合ってる。だからこそ、今回のミスもアナログで防いでいこうと思いました。
司法書士は紙に振り回されて生きている
印鑑証明、登記簿謄本、委任状、住民票…。紙とにらめっこの毎日。それが司法書士のリアルです。紙一枚足りないだけで大きな損失になる。でも、その紙一枚に命をかける人がいるのもまた事実。だからこそ、私はこれからも紙と向き合いながら、地味でも誰かのためになる仕事を続けていきたいと思っています。
印鑑証明 登記簿謄本 委任状の三重苦
紙書類って、なぜこうも揃わないのか…。登記簿謄本を取ったと思ったら印鑑証明がない、委任状はあるけど日付が違う。そんな「あるある」に振り回されながら、それでも笑っていられるかどうかが司法書士の器かもしれません。私はまだまだ未熟。でも、ちょっとずつ前に進んでいる気はしています。
それでも辞めない理由を考えてみた
忙しいし、報われないし、独身だし、愚痴も増えるし。でも、この仕事を辞めようとは思わないんです。きっと、誰かの役に立てたと実感できる瞬間があるから。紙一枚で狂う予定もあるけど、紙一枚で救われる人もいる。そんな現場にいられることが、今の自分の誇りなんだと思います。