訂正の裏に潜む影
補正通知が届いた朝
朝イチで届いたのは、法務局からの補正通知だった。 「地番の誤記」——たったそれだけの理由。だが妙だった。 補正箇所が、そもそも誤っていない。いや、誤っていたのかもしれないが、誰が、なぜ?
申請書の中の違和感
「この地番、本当にミスしてましたかね」 そう言いながら、サトウさんが僕に書類を突き出す。彼女の目つきは鋭い。 確認してみても、元の登記情報と照らして間違いは見当たらなかった。
法務局の窓口でのやりとり
窓口の若い登記官は、笑顔の裏に動揺を隠していた。 「念のためご確認いただければと……」と何度も繰り返す。 その“念のため”が何かを誤魔化そうとしているようにしか聞こえなかった。
同業者からの電話
昼過ぎ、地元の司法書士・マツダから電話が来た。 「お前んとこも出たか、補正」 彼の案件も、同じ地番で、同じような補正通知が出ていたらしい。
奇妙な共通点
複数の補正通知。全てが、ある一つの区画に集中している。 それは、再開発計画が持ち上がっていた地域だった。 地番、所有者、地目……どこをとっても怪しい香りが漂っていた。
サトウさんの調査開始
「じゃ、調べますね」 そう言ってサトウさんは自前のスクリプトを走らせ、登記情報を横断検索し始めた。 もはや僕の出番はなさそうだったので、ファミレスに行きたくなった。
怪しい地役権の記載
検索で浮かび上がったのは、古い地役権の記載だった。 その地役権者は十年以上前に亡くなっていたはずの人物だ。 なぜその名義がまだ生きているのか?誰が得をするのか?
やれやれと呟く夜のひととき
「やれやれ、、、またこんな泥臭い話か」 ファイルの山をかき分けながら、僕はタヌキ寝入りを決め込む。 だがサトウさんは、構わずに検索結果を突きつけてきた。「決まりですね」
サトウさんの推理と結論
「これ、登記官が意図的に補正させてます」 彼女は手元のPDFをクリックしながら説明した。 地役権を意図的に削除させ、その地番を“きれい”にしていたのだ。
地番の先にあった不正
背後には、不動産業者と登記官の癒着があった。 一連の補正依頼は、そのカモフラージュに過ぎなかった。 手口は稚拙でも、発見が遅れれば成功していたはずだった。
登記官との対峙
「この補正、説明してもらえますか?」 僕が低い声で問いかけると、登記官の肩がピクリと揺れた。 しばらくの沈黙ののち、「……確認してご連絡します」とだけ返された。
真実を示す訂正済通知書
後日届いた訂正済通知書には、地役権の記載が“正しく”戻っていた。 それが、この一連の騒動の終着点だった。 だが、誰もそのことを語ろうとはしなかった。
再び日常へ
「次は抵当権の抹消、三件分です」 サトウさんが無表情で僕に書類を手渡す。 「はいはい……。やれやれ、、、こっちの方が大変だわ」 僕はため息をついて、またデスクに向かうのだった。