登記簿が暴いた遺言の闇

登記簿が暴いた遺言の闇

登記簿が暴いた遺言の闇

遺言書の検認を依頼された朝

朝イチで届いた封筒は、厚みのある重たい存在感を放っていた。差出人は、先週亡くなった資産家・奥沢達郎の長男からで、検認手続の依頼だった。封筒を開けると、立派な和紙に記された遺言書が出てきた。

不自然に並んだ法定相続人たち

戸籍を調べると、長男のほかに、妹が一人いるだけのはずだった。だが、遺言書には、見知らぬ「次男」なる人物が記載されている。登記簿上でも彼の名前は見当たらない。これはちょっとしたサザエさんの三河屋さん級の突然の登場だ。

サトウさんの違和感と家系図の矛盾

「この家系図、つじつまが合いませんね」と、事務員のサトウさんが淡々と指摘する。冷静なその声に、僕はちょっとドキリとした。うっかり見逃していたが、確かに不自然な記載がある。やはり彼女の目は鋭い。

亡き被相続人のもう一つの顔

過去の新聞記事を調べると、奥沢達郎がかつて愛人との間に子をなしたという噂が見つかった。その子こそが、遺言書に記された「次男」ではないか。だが彼は正当な認知を受けていなかったようだ。

古い登記簿が語る知られざる取引

昭和時代の登記簿を精査していくと、達郎が十年前に一度だけ、不動産の一部を謎の人物に売却していた記録が見つかる。売買価格も相場より異常に安く、まるで形だけの取引に見えた。

元愛人が残した貸金返還請求書

次男を名乗る男が提出した資料の中に、母親が達郎宛に送った貸金返還請求書のコピーがあった。「愛人だった」と暗に認めている内容であり、手書きの署名もある。だが、肝心の筆跡が微妙に違っていた。

空白の二年間に隠された秘密

戸籍の附票を見ると、「次男」が空白の二年間を海外で過ごしていたことが判明した。しかも、その後日本に戻ってきた日付が、遺言書の作成年月日と一致している。あまりにもできすぎている。

シンドウのうっかりが導いた突破口

書類の束を机にぶちまけてしまった僕のせいで、紙の順番がバラバラになった。だが、それが功を奏した。バラけた文書の中に、表向きは無関係に見える「送金証明書」が紛れていた。差出人の名前は……なんと達郎の妹だった。

筆跡鑑定と最後の証人

筆跡鑑定を司法書士仲間に依頼し、合わせて元家政婦にも話を聞いた。彼女は、次男と称する男が「亡くなる一週間前に無理やり何かを書かせていた」と証言。それは、完全な偽造の可能性を示していた。

遺言書は偽造されたものだったのか

すべての証拠が揃い、遺言書が偽造されたと結論づけられた。裁判所に意見書を提出し、検認は停止。長男と妹のみに相続権があると確認された。次男を名乗った男は、その後、音信不通になった。

真実を告げる登記官のひと言

法務局の登記官がぽつりと「似たような偽造遺言、最近増えてるんですよ」とこぼした。その言葉に、僕は身震いした。誰でも紙とペンで真実を塗り替えられる時代なのかもしれない。

悲しき兄妹の確執と贈与契約

裁判後、妹が贈与契約を盾に長男を訴えた。長男が生前に土地の一部を妹に贈ったという証拠が出てきたのだ。登記には未反映だったが、サトウさんが裏付けとなる契約書を見つけてきた。

サトウさんの冷静な一刀両断

「感情論では勝てません。証拠がすべてです」とサトウさんはきっぱり言った。兄妹は黙り込んだ。まるで名探偵コナンの蘭姉ちゃんが空手で事件を終わらせるかのような瞬間だった。

やれやれ俺の推理は置いてけぼりだ

「結局、俺は何をしたんだろうな」と呟くと、サトウさんが冷たく「紙、ばらまいてただけですね」と返してきた。やれやれ、、、俺の推理人生、またもや脇役か。

登記簿に刻まれた家族の再生

事件は解決した。兄妹はそれぞれの道を歩み始め、遺産も登記上きれいに分割された。僕の手帳に残されたのは、いつものようにコーヒーの染みと、サトウさんの無言の溜息だけだった。

書き換えられた相続の未来

人の心は書き換えられないが、登記と遺言は書き換えられる。それが良いか悪いかはともかく、今日も誰かが司法書士を訪ねてくる。嘘と真実の狭間に立たされながら、僕はまた書類にハンコを押すのだった。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓