友達は結婚して、僕は法務局に通う日々

友達は結婚して、僕は法務局に通う日々

結婚式の案内状が届くたびに

ポストを開けると、ふとしたタイミングで結婚式の招待状が届く。表書きに「◯◯くんへ」と旧友の名前が印刷されていて、それを見た瞬間、心のどこかがぎゅっと締めつけられるような感覚になる。「ああ、また誰かが人生のステージを進んだんだな」と、素直に喜ぶべきところなのに、自分だけが取り残されているような気持ちになってしまう。他人の幸せを妬んでいるわけじゃない。ただ、比較しないでいるのは難しい。

地元の友達グループLINEがざわつく時

案の定、グループLINEが動き出す。「◯◯、結婚するってよ」「奥さんきれいだな〜」「二次会来る?」といったやりとりが続く。返信しようとスマホを握るけれど、なぜか指が動かない。うまいこと言えないし、正直、心からの「おめでとう」が言えるような余裕もない。こんなふうに感じてしまう自分に自己嫌悪する。結局、既読だけつけてそっとスマホを置く。誰も悪くないのに、苦しい。

誰と誰が結婚して、今どこに住んでるのか

かつて同じようにバカ話をして、夜通しカラオケで騒いでいた仲間たち。そんな友達が、今は家庭を持って、子どももいたりする。LINEに載せられる写真には、見知らぬ土地で笑顔を浮かべる友人とその家族。微笑ましいはずなのに、遠い世界のように感じてしまう。たまに「今どこ住んでるの?」と聞かれても、「ああ、相変わらず地元で法務局通ってるよ」としか言えない。

返信せずに既読スルーする理由

リアルのつながりが薄れると、連絡もおっくうになる。既読スルーは冷たい行為かもしれないけれど、傷つかないための自衛本能のようなものだと思っている。「ちゃんと祝福しなきゃ」「社交的にならなきゃ」と思う自分と、「もう放っておいてくれ」と思う自分がせめぎあっている。心のどこかで、「今さら自分が輪に入っていっても意味がない」と決めつけているのかもしれない。

比較する気はないけれど、してしまう

SNSを見れば、友人たちのライフイベントが流れてくる。「第二子誕生しました」「マイホーム建てました」「夫婦で京都旅行」…正直、どれも他人事に見えるのに、頭の片隅では「自分は何してるんだろう」と考えてしまう。自分は仕事に打ち込んできたし、好きでこの道を選んだはずなのに、誰とも共有できない日々が、少しだけむなしく感じる。

僕の朝は登記情報の確認から始まる

朝起きてまず確認するのは、メールでもSNSでもなく、登記関連の案件。事務員の子が出勤してくる前に、案件の進捗と法務局の予約確認をしておく。人生がどんどん私生活中心になっていく友人たちとは違い、僕の生活は仕事が中心。誇れることのはずなのに、なぜか最近は重たく感じてしまう。

法務局の待ち時間と、無機質な窓口

法務局は、毎日のように通う場所だ。番号札を取って、無機質な空間でじっと順番を待つ時間。窓口の人と交わす会話も、最低限の確認と事務処理だけ。以前はこの時間さえ「業務の一部」として割り切れていたけれど、最近は「自分は一体、何をしているんだろう」と考えてしまう瞬間が増えた。

若い夫婦連れの来庁者とすれ違って

たまに、住宅登記か何かで来ている若い夫婦とすれ違う。奥さんが「ここでいいのかな?」と旦那さんに聞く様子に、どこか眩しさを感じる。二人で築こうとしている生活の始まりに立ち会っているのに、どこか部外者のような感覚になる。書類を抱えて、黙ってエレベーターを待つ自分。何が違ったんだろう。

予定表に並ぶ「登記」「登記」「登記」

Googleカレンダーを開けば、「登記」「決済」「相談」「登記」と、びっしり詰まったスケジュール。充実していると言えば聞こえはいいが、隙間がなさすぎて息苦しい。昔は「忙しい=充実」と思っていたけれど、今はむしろ「余白のない日常」に疲弊している自分がいる。誰かと食事に行く時間すら、スケジュールに入れなければ実現しない。

この仕事が好きだったはずなのに

司法書士という職業を誇りに思っていた。誰かの大切な手続きを代行し、信頼されることにやりがいを感じていた。でも最近、その気持ちが揺らいでいる。朝から晩まで書類を作成しても、達成感より「また明日もこれか」という疲労感の方が勝ってしまう。自分の中で何かがすり減っている気がする。

書類を前に手が止まることが増えた

以前なら集中して一気に処理できていたはずの書類作成作業が、どうにも進まない。数行書いては手が止まり、ふと窓の外を見てしまう。書類の山は減らないのに、集中力はどんどん削がれていく。まるで歯車が少しずつ噛み合わなくなってきているような感覚に、不安を感じずにはいられない。

やる気が出ない、でも締切は来る

「今日はちょっとだけ休もう」と思っても、締切は待ってくれない。お客さんからの電話、銀行とのやりとり、登記情報の照会…何もかもが「止まってはいけない」と急かしてくる。仕事に押し流されるように毎日が過ぎていき、自分の感情を見失いそうになることがある。

「ちゃんとしなきゃ」と言い聞かせる毎日

そんな日々の中で、最後に自分を奮い立たせるのは「ちゃんとしなきゃ」という思い。自分が崩れたら、事務員の子も、依頼者も困る。誰も責めていないのに、勝手に背負って、勝手に責任を感じて、そしてまた一人で抱え込んでしまう。たぶんそれが、この仕事の性質でもあるのだろう。

誰のために、何のためにやってるんだろう

ふとした瞬間に、自問自答する。「誰のために」「何のために」僕は働いているのか。生活のため、信用のため、依頼者のため…答えはいくつもあるけれど、本当のところ、自分のために何かをしている実感が少ない。だからこそ、心が置き去りになる。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。