思わず目をそらしたくなる残高との向き合い方
月末になると、なんとなく通帳を手に取ってしまう。ATMの前で画面を見つめる時間が妙に長くなるのは、残高に期待していないからだ。数字を確認しては「こんなもんか」とため息をつくのが毎月のルーティン。司法書士として独立し、もう何年も経つが、ふとした瞬間に「これでよかったのか」と疑問が湧く。金銭面の不安は、仕事のやりがいや自尊心さえも揺さぶってくる。それでも通帳を閉じ、また翌月の支払いを考えながら歩き出す。現実は、いつも淡々と続いていく。
稼いでるはずなのに通帳が寂しい理由
日々、地道に仕事はしている。依頼もある。夜遅くまで登記の処理をしたり、相談対応に時間を割いたり。働いていないわけではない。でも、いざ通帳を見れば「こんなにしか残ってないのか」と虚しさがこみ上げる。稼いでいる感覚はあるのに、なぜか現金が目減りしていく不思議。そりゃあ派手な生活なんてしていない。出費も極力抑えている。でも、何かが足りない。努力が目に見える形で報われていない感じがして、自分を責めてしまう日もある。
毎月入金はあるのに手元に残らない
一件一件の報酬は確かに入ってくる。ただ、それを「収入」と感じる暇もなく支払いに消えていく。例えば、事務所の家賃、保険、税金、そして最低限の生活費。それらを引いたら何も残らない月もある。税理士さんに「今年は黒字ですね」と言われても、手元の通帳は赤茶けたままだ。数字上の黒字と現実の感覚は一致しない。何のために仕事してるのか、一瞬わからなくなる。ほんの少しの贅沢をする勇気さえ、失われていく。
地味に効いてくる経費と固定費の存在
たとえばコピー用紙やプリンターのインク。郵便料金に記録用ハードディスク。ちょっとしたものでさえ毎月積み重なる。お客さんにお渡しする書類をカラーで印刷すれば、それだけでコストが跳ね上がる。自宅兼事務所というわけにもいかず、オフィスを構えるだけで固定費は毎月飛んでいく。電気代や通信費もバカにならない。経費といえばそれまでだが、「もう少しなんとかならないのか」と思うこともしばしばだ。
想像していた司法書士の収入とのギャップ
独立前、先輩に「開業したら自由だし稼げるよ」と言われたことがある。確かに自由はある。でも、稼げるかどうかは別の話だ。開業当初の夢は、ある程度自由に使えるお金と、ゆとりのある生活だった。でも現実は、ギリギリで帳尻を合わせる毎日。夢のような高収入とは程遠く、むしろ「安定しているけど不安定」という妙な状態。自分の価値が金額で測られているようで、落ち込む日もある。
新人の頃に抱いていた夢と今の現実
司法書士試験に合格したときは、それこそ未来は明るいと信じていた。試験勉強中に想像していたのは、地元で感謝されながら、安定した収入を得ている自分の姿。でも実際には、日々の業務に追われ、自分の生活を立て直す余裕もなくなっている。夢が現実にすり替わる過程は、思ったよりも静かで、しかし重かった。現場に出てから気づいた“稼げないリアル”は、新人の頃の純粋さを少しずつ削っていった。
同業者との比較で落ち込むこともある
SNSで他の司法書士が「今月も〇〇件達成!」なんて投稿しているのを見ると、どうしても比べてしまう。自分も頑張っているはずなのに、なぜこんなに余裕がないのか。同じ業界にいても、地域や扱う案件で収入に大きな差が出るのはわかっている。でも「うちはうち」と思い切れない日がある。他人と比べては、自分の不甲斐なさを実感し、さらにため息。負のループに陥ると、なかなか這い上がれない。
何にそんなにお金がかかっているのか
通帳の数字が減っていくのを見て、「そんなに使った記憶がない」と思うのは私だけじゃないはず。日々の支出は、目立つものばかりじゃない。こまごました出費や、予期せぬタイミングでの支払いが、じわじわと財布を圧迫してくる。司法書士という仕事は、一見堅実そうに見えて、出費の幅も広い。だからこそ、何にどれだけかかっているのか、きちんと見直す必要があると思い知らされる。
ひとり事務所のコスト感覚
一人でやっているとはいえ、事務所運営にはそれなりのコストがかかる。見栄を張って大きなオフィスを借りているわけじゃない。古い雑居ビルの一角だ。それでも、最低限の設備、清掃、光熱費は毎月きちんと請求される。おまけに、コピー機のリースや、業務ソフトの利用料など、意外と固定でかかる金額が多い。毎月繰り返されるその支払いに、慣れてしまった自分もまた、怖い。
雇っている事務員の給料とその重み
たった一人の事務員さん。彼女の存在には本当に助けられている。業務の半分は任せられていると言っても過言ではない。でも、毎月の給与を支払うたび「このまま続けていけるか」と不安になる。自分の生活がギリギリでも、彼女の給与だけは必ず確保しなければならない。それが責任というものだとわかっているが、プレッシャーでもある。時に、自分の報酬より彼女の給与のほうが多い月もある。それでも辞められない。
備品や光熱費が意外と痛い
蛍光灯が切れた、椅子のキャスターが壊れた、コピー用紙が足りない…。そんな小さなトラブルが、結果的に大きな出費につながる。日々の業務に支障が出ないよう即対応すると、それだけでお金が飛ぶ。特に冬の暖房や夏の冷房など、快適な環境を維持するための光熱費はばかにならない。備品にかける金額も、「ちょっといいものを買おう」と思えば簡単に予算オーバー。地味だけど確実に効いてくるコストの連続だ。
交際費や移動費の積み重ね
地元の士業仲間との飲み会、地権者との面談、遠方の依頼先との打ち合わせ。司法書士という職業は、意外と人づきあいが多い。しかも、地域密着型でやっていると「顔を出さないと忘れられる」不安もある。だから、断れない会合や食事も多くなる。そのたびに交際費がかさみ、電車代やガソリン代が財布を圧迫する。移動中も仕事のことを考え続けている自分が、ちょっと切ない。
地元でやる以上断れない付き合いもある
地方という環境では、「付き合い」を断ることが難しい場面が多々ある。昔からの顔なじみ、地元の商工会、近所の議員先生…。参加しないと悪目立ちするし、仕事のつながりにも影響することがある。気軽な飲み会も、1回5千円、1ヶ月で2〜3回あれば結構な金額になる。でも、そういう関係を大事にしていかないと、田舎では仕事にならない。必要経費だと自分に言い聞かせながらも、帰り道はいつも苦笑いだ。
クライアント優先の移動と時間のロス
「駅から遠いんですけど…」「お昼しか空いてなくて…」といった依頼者の都合に合わせて動くことは珍しくない。車で片道1時間かけて行って、面談はわずか30分。そのまま次の予定まで2時間空いてしまう、なんてこともある。その移動にかかるガソリン代や駐車場代、さらに失った時間。積み重なると大きな損失だが、それでも「ありがとう」と言ってもらえると断れない。それがまた、ジレンマだ。