今日はそういう日だと諦めるしかなかった日

今日はそういう日だと諦めるしかなかった日

朝からつまずくときはたいてい全部ダメ

朝の目覚めから違和感があった。起きた瞬間、「今日はなんだかうまくいかない気がする」と予感めいたものがよぎった。そういう日は、経験上やっぱり全部がズレていく。何もかもが少しずつ狂って、それがじわじわと自分の気力と集中を削っていく。いつもならルーティン通りに進むはずの朝が、なぜか今日は最初の一歩からおかしかった。司法書士の仕事はミスが命取りになる。だからこそ、こういう「ズレ」の始まりには敏感になってしまう。だが、そんな繊細さすらも今日は空回りするのだった。

目覚ましを3回止めてからの後悔

普段は一度の目覚ましで起きられるのに、この日は3回スヌーズを繰り返してようやくベッドから這い出した。寝坊とまでは言わないが、出発の準備に余裕がなくなるだけで一日のスタートがぐっと雑になる。着る予定だったワイシャツにアイロンがかかっていないことに気づき、急いで別のシャツを引っ張り出してきた。こういう小さな誤算が積み重なると、頭の中で「今日、ダメかもしれん」が定着してしまう。もうこの時点で、気持ちは防戦一方だった。

なぜかこういう日に限って電話が鳴る

慌てて事務所に着いた途端、待っていたのは着信履歴の山。しかもよりによって、急ぎで返さなければならないお客さんからの連絡が3件も入っている。机に荷物を置く間もなく、受話器を握ったままの状態で午前中が過ぎた。こちらの焦りは伝染するのか、相手の声もどこかイライラしているように聞こえる。どれも簡単には答えを出せない相談ばかりで、喉は乾き、頭は回らず、汗だけがやたらと出てくる。何かがおかしい、やっぱり今日はそういう日だ。

朝イチで法務局に行ったのが間違いだった

その合間を縫って向かった法務局では、普段ならスムーズに終わる手続きにまさかの書類不備。いつもと同じようにやったつもりだったが、よく見ると添付書類の一部が前の案件のものになっていた。自分の確認不足以外の何ものでもない。それでも「確認したつもりだった」と自分に言い訳しながら、再提出のために事務所へ逆戻り。時間と気力が容赦なく削られていく。もう笑うしかないとは思うが、笑えないのが本音だった。

事務員との噛み合わないやりとりに疲弊

こういう日に限って、事務所の空気もうまく回らない。普段はよく気が利く事務員さんなのに、今日はなぜかこちらの意図が伝わらない。こちらも余裕がないので言い方がキツくなってしまう。だが、そんな自分にも嫌気がさして、さらに落ち込む。まるで悪循環の見本のような一日だ。言葉を交わせば交わすほど噛み合わなくなり、お互いに戸惑った表情だけが残る。仕事なのに、気を遣う。そこに疲れが倍増していく。

聞いたはずの内容が伝わっていない不思議

「あれ、これ頼んでませんでしたっけ?」と自分が言い、「聞いてません」と事務員さんが返す。こんなやりとりが、この日は二度も三度も繰り返された。信頼関係にヒビが入るようなことはしたくない。でも、ミスが続くと人間関係にも余裕がなくなるのが現実だ。頭の中では「自分の伝え方が悪かったんだろう」と思いつつも、言葉にできるほど優しさも残っていなかった。些細なすれ違いが、一番堪える。

悪いのは自分かもしれないという自責のループ

ひと段落した午後、デスクに戻って冷めたコーヒーを口に運びながら考える。「俺が悪いんだろうな」と。怒ってるわけでもないし、嫌ってるわけでもないのに、ちょっとしたやりとりがうまくいかない。その原因は、自分の余裕のなさだとわかってはいる。でも、分かっていても変えられないのがまた苦しい。仕事って、技術や知識だけじゃなく、人としての余裕が問われる場面がある。それが一番しんどい。

簡単なはずの業務でなぜか凡ミス連発

午後の仕事は軽めのはずだった。申請書を2件ほど出して、確認しておいた取引先への連絡を済ませるだけ。でも、書類の名前を一文字間違えて入力し、そのまま印刷して封入してしまった。確認の段階で気づいたから良かったものの、見逃していたら大変なことになるところだった。司法書士にとっては“凡ミス”が命取りだ。なのに、今日はその“凡ミス”に次ぐ“凡ミス”。地味に心が削られる。

登記情報を一文字間違えるという凡ミス

マンション名の「ヴ」と「ブ」を間違えた。ただそれだけのことだが、登記上はまったくの別物になる。訂正をお願いする連絡を入れる手は、軽く震えていた。「こういう基本的な部分で…」という言葉が、相手から出てこないかとビクビクしていた。自分でも情けないと思う。でも、こういう時は重なる。意識が飛ぶ瞬間があるのだ。集中しているつもりでも、どこかが抜けている。気づいたときには、もう遅い。

お客さんに謝りの電話を入れる手の震え

電話をかける瞬間は、毎回胃がキリキリする。特にミスをしてしまったときの連絡は、本当に心が重い。電話口の向こうで「大丈夫ですよ」と言われても、心の中で「そう言ってくれてるだけだろうな」と感じてしまう。過去の失敗がフラッシュバックし、自信をなくす。こうやってどんどんネガティブになっていく。たった一言の謝罪の裏に、いろんな感情が渦巻いている。

昼休みに外に出たら雨が降ってきた

気分転換のために事務所を出て、いつものコンビニに向かった。空を見上げると曇っていたが、まさか降るとは思っていなかった。歩き出してすぐにパラパラと雨が降り出し、気づけば本降りに。折りたたみ傘は事務所に置いたまま。ジャケットは濡れ、靴下はじんわりと湿っていく。晴れ男を自称していた自分が、今日だけは完敗だった。

コンビニ弁当が潰れていた午後

濡れた手で慌てて買ったコンビニ弁当を事務所に持ち帰り、デスクで広げると、容器が潰れていて中身が偏っていた。なんというか、これも象徴的だった。今日はそういう日。食べる気も少し失せたが、午後の仕事に備えて無理やり口に運んだ。味なんてよくわからなかった。机に向かいながら、「早くこの日が終われ」としか考えられなかった。

濡れたスーツと心のコンディション

午後の来客に備えてスーツを着替える余裕もなかった。濡れたままの袖とズボンで対応する自分に、なんともいえない無力感があった。昔、野球部時代に「泥臭くても前を向け」と監督に言われたが、今のこれはただの“ずぶ濡れ”。それでも仕事は待ってくれないし、誰かが代わってくれるわけでもない。心がシワシワにしぼんでいくのが分かった。

そんな日でも何とか一日を終えた

結局、その日も何とか終わった。ミスだらけ、空回りだらけだったが、倒れずに、投げ出さずに机に向かい続けた自分を、とりあえずは認めてやることにした。司法書士は孤独だ。特に地方の事務所は、助けも少ない。でも、「今日はそういう日だった」と自分に言い聞かせて、風呂に入り、飯を食い、寝る。それがまた明日を生きるための、小さな準備になる。

ミスの山でもやるしかないという気持ち

今日の失敗を引きずったまま眠るのは、正直しんどい。でも、あの日々の積み重ねが自分を作っているのだと思えば、少しだけ意味がある気もする。逃げ出したい日もあるし、全部嫌になる日もある。でも、俺はまだ司法書士として仕事をしている。そういう事実が、たとえ弱々しくても支えになっている。

帰り道に寄ったスーパーで少しだけ救われた

事務所を出て、何となく寄ったスーパーで、半額シールの貼られた惣菜を手に取った。どれにしようかと迷っている自分に、「お疲れさま」と心の中で声をかけた。誰も褒めてくれないなら、自分で自分をねぎらうしかない。そんなことを思いながら、レジに向かった。こんな日もある。でも、生きてるだけマシだと、今日は思えた。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。