謄本が語る最後の真実

謄本が語る最後の真実

謄本が語る最後の真実

忙しい朝に届いた一本の電話

「もしもし、司法書士のシンドウさんですか?」
朝のコーヒーに口をつける前に、受話器からそんな声が飛び込んできた。
声の主は若い女性で、どこか怯えたような口調だった。

調査依頼という名の違和感

内容はこうだ。亡くなった叔父の土地の名義変更を進めようとしたところ、謄本に見覚えのない名前が記載されていたという。
「誰かが勝手に登記したのかもしれないんです」と彼女は言った。
違和感の正体を確かめるため、俺は依頼を引き受けることにした。

訪ねてきた男と空白の相続

その日の午後、別件で事務所を訪れたのはやけに丁寧な男だった。
「父の遺産の件で相談がありまして」と切り出したが、どこか話が噛み合わない。
やけに伏し目がちで、視線が謄本の置かれた机に吸い寄せられていた。

登記簿に刻まれた不自然な記録

登記簿を確認すると、たしかに奇妙な点がいくつかある。
相続登記がなされた日付と、被相続人の死亡日が数ヶ月も離れているのだ。
それだけではない。登記に使われた委任状の印鑑証明の発行日が、なんと死亡日より新しかった。

サトウさんの冷静な一言

「この印鑑証明、発行日が“亡くなった後”ですね」
書類を整理していたサトウさんが、何気なく放ったその一言が核心を突いた。
俺は手にしていたボールペンを落としそうになった。

消えた名義人と半年前の火事

妙な名義人の住所をたどってみると、そこは半年前に火事で焼失した一軒家だった。
所有者は不明のまま、建物は解体され、土地も売却予定だったという。
謄本には、謎の名義人による所有権移転の記録がなぜかしっかり残っていた。

やれやれ、、、まさかまたこうなるとは

こういう厄介な案件に限って、なぜか俺のところに来る。
「名探偵でも探偵事務所でもないのに」とボヤくと、サトウさんは書類をめくりながらこう言った。
「司法書士は書類に命をかける職業ですから」

裏取り調査と役所のミス

役所に問い合わせてみると、過去に同姓同名の人物がいて、誤って別人の情報が混在した可能性があるという。
それにしても、証明書類の整合性が取れなさすぎる。
誰かが意図的に“その人”を登記上に作り上げたのではないか――そんな考えが頭をよぎった。

決め手は改製原謄本の一行

古い登記簿を閲覧していたとき、サトウさんが突然立ち上がった。
「この地番、過去に名義が“戻されてる”形跡があります」
改製原謄本の中に、小さな訂正印と、削除された氏名の痕跡があった。

犯人が隠したつもりの証拠

すべてがつながった。
依頼者の親戚が勝手に謄本の情報を使い、他人を装って所有権を移転しようとした。
本物の委任状ではなかった。印鑑証明も、火事で焼けた家に保管されていた“偽造品”だったのだ。

動機は遺産かそれとも復讐か

裏で糸を引いていたのは、かつて叔父に商売を潰された元義理の弟だった。
遺産を狙ったというより、復讐心がすべての引き金だったのだろう。
だが司法書士にとっては、動機よりも“記録”が全てを語っていた。

サトウさんが放った一撃の推理

「火事の数日後に登記が動いてるのもおかしいですね。現地確認もせずに所有権が変わるなんて」
冷静なトーンのまま、サトウさんは核心を突いた。
登記官も書類に惑わされたのだ。

追い詰められた依頼人の告白

最終的に、真相を突きつけられた依頼者の親戚はポツリとこう言った。
「ちょっとだけ、取り返したかっただけなんです」
だが登記簿は感情を許してはくれない。ただ正しく記録されるのみだ。

登記が明かす家族の真実

謄本に隠された一連の出来事は、結果として叔父の過去の因縁をも明るみに出した。
司法書士の仕事はただ書類を処理するだけではない。
そこには、誰かの人生や家族の歴史が折り重なっている。

そしてシンドウは今日も書類をめくる

事件が終わったあとも、山積みの案件は容赦なく俺の机に降ってくる。
「司法書士ってのは、どこまでが仕事なんだろうな」
サトウさんは返事もせず、次の依頼書を無言で差し出した。

日常へ戻るが心に残る謄本の記憶

やれやれ、、、。
今日もまた、何かが謄本の中で動き出そうとしている気がした。
俺は黙ってファイルを開き、ページを一枚めくった。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓