登記ってこんなに重いんです

登記ってこんなに重いんです

登記に心を削られる毎日

司法書士としての仕事の中でも、登記業務には独特の重さがあります。書類を整え、期限を守り、法務局とやりとりをして、ようやく完了まで辿りつく——そのプロセスは一見ルーチンのように思えますが、実際は毎回が真剣勝負。たった一つのミスが依頼者の人生設計に影響を与えるかもしれないという緊張感が、静かに、しかし確実に心をすり減らしていきます。特に一人事務所では、誰にもその重圧を分けることができません。

書類一枚の裏にある重責

たとえば、住宅ローンの抵当権設定登記。銀行の担当者から「今日中にお願いします」と言われて、関係者の印鑑証明書や住民票をかき集め、間違いのないよう確認しながら書類を整える。書類の山の中のたった一枚のミスで、登記が却下される恐れがあるのです。その責任は、誰でもない自分が負うことになります。依頼人にしてみれば「プロなんだから当然」と思われるでしょうが、こちらにも緊張で手が震える日があること、少しはわかってほしいと思う時もあります。

「間違えたらどうなるのか」の重圧

登記というのは、書類が正しければ当然通る。でも、正しいかどうかを判断するのは法務局です。そして、その判断のズレを事前にすべて予測するのは不可能です。ある時、補正の通知が届いて「原因はこの一文の表現です」と言われたことがありました。「そんなの、前は通ったじゃないか!」と心の中で叫びながらも、依頼人には平謝り。まるで審判に抗議しても覆らない野球の判定のようです。あれは元野球部の自分にとっても、悔しいやら虚しいやら。

依頼者の人生を背負う感覚

ときどき、登記の完了が遅れたことで、依頼者が不動産の引き渡しに間に合わなかった…そんな事例を耳にします。自分のところではなんとか回避できているけれど、もし自分が原因でそんなことになったらと思うと、ぞっとします。登記は「ただの事務」ではなく、人の生活の土台を支える仕事です。家を買う、新しい生活を始める、そういった人生の節目に関わる責任の重さを、誰よりも実感しているのが私たち司法書士です。

登記完了通知が出るまでの不安

登記の申請が終わった後、法務局から「完了しました」の連絡が来るまでは、どこか心が休まりません。補正が出るかもしれない、記載ミスが見つかるかもしれない、提出書類の中に不備があったら…そんな不安が頭の中をぐるぐると回ります。たとえば以前、登記識別情報通知がなかなか届かず、依頼者から催促の電話があった時は、胃がキリキリと痛んだのを覚えています。結局、法務局側の発送ミスだったのですが、それが判明するまでは眠れませんでした。

待つだけで胃が痛くなる午後

午後の静かな事務所で、電話が鳴るたびにびくっとする。法務局からか?それとも依頼者か?「何かミスをしたのでは」と自分を責める思考が止まらず、仕事の手が止まる。そんな日は、胃が重くてコーヒーさえ飲めません。ときどき、「これって健康に悪いんじゃ…」と思いながらも、結局はまた次の案件に取りかかってしまう。逃げ出したくなるほど重いけれど、逃げ場がないのが、司法書士という仕事なんです。

法務局との見えない綱引き

「書いてある通りに出したはずなのに、なぜ補正?」そんな経験は一度や二度ではありません。法務局とのやりとりは、まるで見えない相手と綱引きをしているような感覚になります。しかも、相手はルールを時々変えてくる。ある意味、勝てないゲームを毎日繰り返しているようなもの。それでも、こちらが諦めたら終わりなので、なんとか粘るしかない。元野球部で培った我慢強さが、まさかここで生きるとは思ってもみませんでした。

補正通知が届くたびに頭を抱える

登記申請後に届く「補正通知」。これが来ると、もう頭を抱えます。内容を確認し、どこが間違っていたのかを探し、再提出の手続きをする。スケジュールがタイトな案件ほど、この補正が命取りになります。「この程度なら見逃してくれたっていいのに…」と思うこともありますが、法務局は容赦なし。まるで、完璧な投球でないと打ち返されるピッチングのような感覚です。少しのミスも許されないプレッシャーの中、こちらは必死です。

「これ誰のせい?」と自問する夜

補正が来ると、まず自分の書類を見返し、次に依頼人からの資料を再確認し、それでも原因がわからないとき、「誰のせいなんだ」とつぶやいてしまう夜があります。結局、自分が出した以上、自分の責任です。でも、やるせない。誰かに「大丈夫、よくやってるよ」と言ってほしい。そんな夜に限って、事務所には自分しかいない。テレビもつけずに、コーヒーだけが相手です。司法書士って、こんなにも孤独な仕事だったんだなと、痛感する瞬間です。

一人事務所の限界を感じる瞬間

事務員さんが一人いるとはいえ、実質的には何でも自分でこなさなければいけない状況が多々あります。電話対応、書類作成、法務局への連絡、依頼人との打ち合わせ——すべてを一人でさばく日々の中で、「誰か代わってくれ…」と心の中で叫んでいます。限界を感じても、誰にも頼れない現実。特に、ミスが許されない登記業務では、そのプレッシャーが倍増します。誰かと一緒にこの重さを分かち合えたら、と思わずにはいられません。

事務員さん一人では回らない

もちろん事務員さんも頑張ってくれています。でも、登記の専門的な部分まで任せられるわけではない。気軽に「これお願い」とは言えないのがもどかしい。事務所の売上的にも人を増やす余裕はなく、結局、自分で何とかするしかない。このループが続くと、心も体もすり減っていきます。おまけにミスが起きた時には、自分の責任に直結するという恐怖感。誰にも任せられない、でも自分も限界。そんなジレンマの中で、今日も仕事は終わりません。

ミスできない日常と孤独

司法書士の仕事は、他人に相談しにくい。法律的な判断、登記の段取り、すべて「自分で考えて正解を出す」ことが求められる。間違っていたら、それはあなたのせいです、という世界。孤独を感じる瞬間は多く、「この書類、本当にこれで合ってるかな…」と夜遅くまで一人で悩んでしまうこともあります。孤独の中で判断を迫られるというのは、想像以上にきつい。誰かと確認し合えるだけで、少しは心が軽くなるのにと思ってしまいます。

気づけば昼ごはんが夕方になる

忙しい日は、気がつけば時計が17時を回っていて、「あれ?昼ごはん食べてないじゃん」と気づくことも。カップラーメンにお湯を入れたまま忘れてしまい、食べる頃には伸び切っているなんてことも珍しくありません。そんな生活が続けば、心身のバランスも崩れていきます。でも、目の前の書類は待ってくれないし、依頼人のスケジュールもある。誰かに「今日は代わりにやるよ」と言ってもらえる日は来るんでしょうか…。そんなささやかな希望が、遠くに霞んでいます。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。