偽りの遺言書

偽りの遺言書

偽りの遺言書

朝一番の来客

朝のコーヒーを淹れようとしていたところに、チャイムが鳴った。 予想どおりサトウさんは席を立たない。いや、立つ気配すらない。 しぶしぶ扉を開けると、喪服姿の女性が神妙な面持ちで立っていた。

書き直された遺言の理由

「父の遺言が先週書き直されていたんです」 彼女はそう切り出すと、一枚の遺言書を差し出した。 日付は亡くなる三日前。しかも内容は、長男を完全に外すものだった。

亡くなったのは誰か

被相続人は元会社社長、財産は不動産と株式合わせて数億円にのぼる。 しかし関係者の話では、亡くなる直前にはすでに寝たきりだったという。 三日前に本人が書いたとなると、いろいろと矛盾が出てくる。

不自然な日付のズレ

提出された遺言書と、以前保管していた写しの違いに気づくのに時間はかからなかった。 日付が旧い様式のまま残っていたのだ。「令和」ではなく「平成」。 寝たきりの高齢者がそんな間違いをするだろうか。

相続人たちの言い分

長女は口数少なく、次男は沈黙を貫くが、長男だけが怒鳴り散らしていた。 「俺にだけ相続させないなんて、親父じゃねぇ!」 サザエさんの波平ばりの剛毛でテーブルを叩く姿は、少し滑稽だった。

目撃証言とサザエさんの呪い

介護施設の職員がぽつりと証言した。 「最後の数日は筆も握れなかったと思います……」 「遺言を書いた」と主張する次男は、某マンガに出てくるカツオのように目が泳いでいた。

遺言執行人の奇妙な沈黙

遺言書に名前がある弁護士に電話をしたが、応答が曖昧だった。 「依頼は……たしかに……ですが、詳細までは……」 言葉を濁す様子に、違和感しかなかった。

サトウさんの冷たい推理

「要するに、病床の父親を利用して書類を偽造したってだけですね」 サトウさんは一枚の資料を机に叩きつけた。 それは筆跡鑑定の結果で、二枚の遺言書が別人の筆跡であることを示していた。

遺言書に仕掛けられたトリック

さらに検証すると、印影も微妙に異なることが判明。 朱肉ではなく、プリントされたような不自然さがあった。 偽造した者は、きっと自分が完璧だと思い込んでいたのだろう。

野球部の記憶とペンの色

俺はふと思い出した。高校時代、監督のサインを筆跡コピーして部室に貼った事件を。 あのときも、万年筆のインクの色が決め手になった。 今回も、同じ型番の万年筆と異なるインクが証拠になりそうだった。

シンドウのうっかりと決定的な証拠

「これは……ええと……あれ、印鑑証明ってどこに置いたっけ?」 大事な書類を探して右往左往したが、意外にもコピー機の上に置き忘れていた。 だがその印鑑証明書が、偽造に使われたものと微妙に異なることに気づく。

やれやれ、、、この仕事も体力勝負だ

遺言無効確認の申立書を作成して、全員に事情を説明した夜。 体中がバキバキだった。事件が解決しても、誰も俺を褒めてはくれない。 それでもやっぱり、やれやれ、、、この仕事も体力勝負だなと独り言をつぶやいた。

真実の告白ともう一通の遺言

次男が自首した。 「親父の財産を横取りしたかったんだ」 後日、遺品の中から封筒が見つかり、そこには「本当の遺言」が納められていた。

最後に笑ったのは誰か

長男が小さく笑っていた。 「あいつ、昔からずる賢かったからな。俺には見抜けたさ」 サザエさんのように最後には全員揃って笑う……なんてことはない。

書類の中の嘘を暴く

紙の中には、いくらでも嘘が書ける。 だがその嘘を読み取るのも、また俺たち司法書士の仕事なのだ。 文字の裏にある人間の感情と戦いながら、今日もまた机に向かう。

エピローグ シンドウ事務所の静かな午後

午後の陽射しが事務所の窓から差し込む。 サトウさんがカタカタとキーボードを打ち、俺は伸びをした。 次の依頼人が来るまでは、静かな時間が流れていた。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓