電話が怖くなる日がある

電話が怖くなる日がある

何気ない一コールに怯える朝

朝の静けさを破るように、事務所の電話が鳴る。まだコーヒーも飲み終えていない時間帯に、あのコール音が響くと、反射的に胸がざわつく。誰からだろう、何の用だろう、と頭が回り始める。受話器を取る前から、心の中では最悪のケースを想像してしまう。昔はこんなに電話が怖くなかったはずだ。でも今は違う。「また何かミスがあったんじゃないか」「怒られるかもしれない」という不安が真っ先に浮かぶようになってしまった。

コール音が胃に刺さる瞬間

ある日、事務所の電話が立て続けに3回鳴った。そのうちの1回は留守電、もう1回は不在着信。3回目、やっと取った電話の相手は、怒り心頭の依頼者だった。「何度かけても出ないってどういうことですか!」と開口一番に言われて、謝罪からのスタート。こちらとしては別の電話対応中だったのだが、それは相手には関係ない。電話一本の出方で印象が決まり、それが一日を左右する。胃がきゅっと縮むような、そんな瞬間は珍しくない。

着信履歴がトラウマを呼び覚ます

スマホの着信履歴を見て、ある番号に背筋が凍る。以前トラブルになった相手の番号だった。すぐ折り返した方がいいのか、少し落ち着いてからの方がいいのか悩む。でも放っておくと、また怒られる。電話一本にこんなにも気を使うなんて、若い頃の自分では想像できなかった。着信履歴がプレッシャーの証拠になる。あの日のことをまた思い出してしまうのだ。

電話の向こうにある“何か”への恐怖

電話というのは不思議なもので、受話器の向こうにいる相手の表情も空気もわからない。声のトーンや間の取り方だけで相手の感情を読み取らなければならない。しかもこちらは常に“司法書士”という立場で話さなければいけない。普通の人のように「ちょっと待ってください」なんて気軽に言えないのだ。だからこそ、電話には一種の恐怖を感じる。

クレームか確認か、それとも呼び出しか

鳴っている電話に手を伸ばすとき、頭の中でいくつかの可能性を予測する。書類の不備? 登記ミス? それとも、裁判所からの確認? 「最悪」が先に浮かぶクセがついてしまっている。たとえ雑談だったとしても、最初の5秒で判断がつくまでの時間がとにかく怖い。以前、軽い世間話から始まった電話が、突然「ところで、先日の書類、ちょっとおかしいと思うんですが」と続いたことがあって、それ以来、安心できる会話でも心のどこかで身構えてしまうようになった。

「先生いらっしゃいますか?」の圧

このフレーズが嫌いだ。「先生いらっしゃいますか?」。一見、丁寧な言い回し。でもその裏には、「直接話がしたい」「逃げられないぞ」という圧を感じてしまうのは、被害妄想だろうか。事務員が取り次いでくれるとき、こちらの顔色を見て「あの…ちょっと機嫌悪そうです」と言ってくれることがある。それだけでこちらの心拍数が上がる。電話の圧は、メールよりも何倍も強い。

事務所に一人きりの時が一番怖い

事務員が休みの日や外出中に電話が鳴ると、逃げ場がない。誰も代わりに出てくれないという当たり前の状況が、異様なプレッシャーに変わる。そんな時に限って、なぜかややこしい電話が多いのは気のせいだろうか。メモを取る手も震えるし、会話が頭に入ってこない。たった一人で全方位に対応しなければならない怖さは、経験者にしかわからない。

出たくないけど、出ないわけにもいかない

電話に出るべきか、無視すべきか。その一瞬の判断で、後々の信頼関係が決まってしまうこともある。だから結局は出るしかない。けれど、心が追いつかない。出た瞬間から全神経を集中しなければならない。ミスをしないよう、言葉を慎重に選んで、相手の呼吸に合わせて返事をする。そんなことを毎回やっていたら、そりゃあ精神的に疲れる。

鳴る前から構えてしまう負のループ

電話が鳴っていないときですら、鳴るかもしれないと身構えてしまう。電話の着信音がトラウマになっていて、ドラマの中で誰かの携帯が鳴るだけでドキッとすることもある。まるで「鳴るのを待っている」ような緊張状態。これでは心が休まらないのも当然だ。だから休日でも、スマホを机に置いておくことができない。家にいても気が抜けない。

電話一本で一日が崩れることがある

予定通りに仕事を進めていたはずなのに、一本の電話で全てが狂うことがある。急な訂正、緊急の対応依頼、怒りのこもった相談…。その一本で、それまでの段取りが全て吹き飛ぶ。何が厄介って、その影響がその日一日だけでは済まないこともある。翌日の準備や他の仕事の進行にも支障が出る。電話の内容によっては、1週間がズレ込むこともあるのだ。

たった一言でぐちゃぐちゃになる予定表

「先生、至急お願いしたいことがありまして」と始まる電話には要注意だ。だいたいが予定外の急ぎ案件だ。本来なら断るべきなのだが、どこかで「それくらいやって当然だ」と思われている雰囲気がある。元野球部の性分もあってか、つい「はい、わかりました」と引き受けてしまう。結果、予定していた書類作成は後回しになり、夜の予定もキャンセル。たった一言が、全体のリズムを壊す。

終わらない対応どこにもぶつけられない怒り

怒鳴られるような内容じゃないのに、理不尽に怒られることがある。それでもこちらは冷静に対応しないといけない。電話を切ったあとに、ようやく溜め息を吐く。でもどこにも怒りをぶつけられない。事務員に愚痴っても、気を遣わせてしまう。家に帰っても、独身だから誰かに話すこともできない。こうして小さな怒りや悲しみが蓄積されていくのが、この仕事のしんどいところだ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓