誰にも見られない努力が積み重なる毎日
司法書士の仕事は、目立たない。誰かに「すごいですね」と言われることもなければ、表舞台で称賛されることもない。けれど、日々積み上げている作業は、確かに誰かの生活や人生を支えている。それをわかっているからこそ、僕たちは静かに机に向かう。ただ、ふとした瞬間に「誰か見てくれてもいいんだけどな」とつぶやきたくなるのも事実だ。
誰かに見てほしいわけじゃないけど
仕事をしているとき、「これで誰かが安心できるなら」と思えることが原動力になっている。でも、その誰かが実際に「ありがとう」と言ってくれるかというと、そうでもない。登記が無事に終わっても、感謝の言葉もなく音沙汰がないこともある。それが普通だとわかっていても、心の奥底では誰かに頑張りを認めてほしいと思っている自分がいる。
それでもたまには報われたい気持ち
昔、相続登記で対応したご家族が、わざわざ手書きの手紙を送ってくれたことがあった。達筆な字で「お世話になりました」とだけ書かれていたけど、その一通がどれだけ心を支えてくれたか。普段は無口なお客さんがふと漏らす「助かりました」の一言。それだけで、「やっててよかった」と思える日もある。
拍手よりも「助かりました」の一言がしみる
劇的なドラマも感動的なセリフもない。でも、「登記が終わったって、ちゃんと役目を果たせたな」と自分に言い聞かせる。こっそり自分を褒める時間も、実は大事なのかもしれない。僕たちは、日陰の職人のようなものだ。光が当たる場所にはいない。でも、確かに社会の隙間を支えている。そんな自負があるから、今日もまた書類に向き合う。
事務員一人だけの現場で起きること
うちの事務所は、僕と事務員さんのたった二人。少人数だからこそのチームワークもあるけれど、逆に息が詰まるような瞬間もある。忙しいときほど、会話もなく、それぞれがそれぞれの仕事に集中している。大きな会社のように「お疲れ様です」とか、フォーマルな挨拶はない。でも、目が合えばなんとなく気持ちは通じる。そんな関係性が、意外と心地よかったりする。
言わなくても伝わる関係が一番難しい
長く一緒に働いていると、「あれ、察してくれてるな」と思う瞬間が増える。でもそれって、日頃の小さな積み重ねがあるからこそで、最初からそうだったわけじゃない。逆に、ちょっとした誤解でギクシャクすることもある。「あの一言、余計だったかな…」と気にし始めると、業務に集中できなくなったりする。言葉の力も、沈黙の重みも、どちらも怖い。
会話が少ないからこそ察する力が問われる
忙しさにかまけて、指示が雑になったり、確認を省略してしまうこともある。そんなときに、事務員さんがうまく補ってくれると、本当にありがたいと思う。言葉少なでも信頼関係があるから成り立っている。それでも、「ありがとう」は口にしないと伝わらないのが現実だ。感謝を省略すると、気持ちもすれ違う。自戒を込めて、今日はちゃんと「助かったよ」と言って帰った。
無言の連携プレーが成立した日だけは少し誇らしい
朝から大量の書類に追われて、昼飯も抜きで仕事をこなした日。無言で役割を分担して、終わった頃にはヘトヘトだったけど、「今日うまくまわったな」と思えた。言葉じゃない信頼って、やっぱりある。そんな日は、ちょっとだけ自分たちの小さなチームに誇りを持てる。誰にも言わないけど、心の中で「おつかれさん」とつぶやいた。
電話と書類と沈黙と
僕の一日は、電話の着信音から始まる。そして、終わるまでに何度も電話に割り込まれる。ようやく書類に集中しようとした瞬間に、また別件の連絡が入る。そのたびに頭を切り替えるのは正直つらい。マルチタスクなんてかっこいい言葉じゃ片づけられない、そんな現場がここにはある。無音の時間がいちばん仕事が進む。だからこそ、その沈黙の貴重さを痛感している。
予定が狂うのはだいたい一本の電話から
たとえば、今日やろうと決めていた案件に朝から取りかかったとしても、「今から伺いたいんですけど大丈夫ですか?」という電話一本で全部ひっくり返る。突然の来客、急ぎの相続、謄本の不備。予定通りに進む日はほとんどない。でも断れないのがこの仕事。誰かの「困った」を解決するために動いている以上、自分の予定なんて後回しだ。
一枚の書類に翻弄される一日
特に法務局から戻ってくる書類の中には、思わず「うそだろ」と声が出るような不備がある。こちらのミスじゃなくても、結局対応するのはこっち側。何度もチェックしたはずの書類に足りない印があって、再度押印をお願いすることになる。お客さんに頭を下げ、時間を調整し、謝りながら次の段取りを組む。たった一枚の紙に、何時間も振り回されるのが日常だ。
沈黙の時間ほど心が騒がしい
やっと静かになった事務所で、ひと息つけると思っても、頭の中はずっと次の段取りを考えている。「あの件、明日には出せるかな」「書類届いてるといいな」と。誰にも見えないその時間、見た目は静かでも心の中はフル回転だ。たまに、全部放り出して野球部時代みたいに大声出して走りたいと思う。だけど、そんな自由はもうどこにもない。