読めない謄本コピーとにらめっこした午後
コピーなのか目なのか分からないけどとにかく読めない
ある日の午後、いつものように依頼者から届いた登記の資料に目を通していた。謄本コピーを見て、「……ん?」と眉をひそめる。なんだか文字がにじんでいる。自分の目の問題か、それともコピー機のせいか。何度見直してもぼやけて見えて、読み取ろうとするたびに目の奥がズーンと重くなる。読めない、でも読まなきゃ進まない。たったそれだけのことなのに、ものすごいストレスを感じるのだ。
「あれ?字が二重に見えるんだけど」から始まる小さな絶望
最初は「疲れてるのかな」と思った。夜中に目を酷使したせいかもしれない。けど、よく見ると二重にブレたようなコピーが手元にある。登記簿の代表者氏名が、まるで水の中で揺れているみたいに歪んで見える。しかも重要な箇所に限ってブレてるんだよな。普段から「目を酷使しすぎかな」と思っていたが、この日は違った。どう考えても紙のせい。だが原因がわかっても、読めるようにはならない。この時点で地味に心が折れる。
もしかして老眼?と思ってメガネを拭くが変化なし
気を取り直して、メガネを丁寧に拭いた。「もしかしたらメガネが汚れてるだけかも」と自分に言い聞かせながら。でも、変わらなかった。くっきり見えないままの謄本コピーは、まるで「読めるもんなら読んでみろ」と挑戦してくるかのようだ。目を細めたり、角度を変えたり、明るい場所へ移動したりと、まるで謎解きをしている探偵のような動きになっていく。悲しいことに、それでも読み取れないものは読み取れない。
ついにはスマホのカメラで拡大して読む始末
最終的にはスマホを取り出し、カメラで撮影して拡大するという奥の手に出た。最近のスマホの性能はすごくて、拡大してようやく文字が判別できるレベル。それでも判読できるのは三分の二程度。結局、肝心な住所や役員名の一部が不明のままだった。スマホに頼らなければ読めないって、もはやアナログ書類の限界を感じる。時間はどんどん過ぎるが、作業は進まない。これが“地味に効くストレス”の典型だ。
謄本のコピーを見てると仕事のやる気がどんどん削られる
本来なら、謄本の内容確認なんて10分もかからない仕事だ。それがこのコピー一枚で1時間近くロスするとなると、心が折れる。読めない書類を前にして「はぁ…」とため息をつく。その数が1日で何回にもなると、やる気というものは想像以上に削がれていく。書類ひとつでこんなに精神を消耗するなんて、司法書士という仕事はつくづく“目と根気”の勝負だと痛感する。
「字がつぶれてるから分かりません」なんて言えない現実
依頼者に対して、「このコピーじゃ読めません」と正直に言いたい。でも、実際にはそうもいかない。理由はシンプルで、“プロなら読み取って当然”という目で見られてしまうからだ。こちらから読み直しをお願いすれば、なんとなくこちらのスキル不足と思われるのが悔しい。だからと言って、判読できないまま進めるわけにもいかない。結果として、一人でにらめっこしながら心の中で静かに悪態をつくのが関の山。
目を凝らしても意味不明の会社名や代表者氏名
読みづらい箇所に限って、法人名や代表者の氏名など、間違いが許されない重要な情報が書かれている。これがまたストレス。適当に書くわけにもいかないし、誤字のまま書類に転記してトラブルになるのは避けたい。文字の中にかすれたような濁点があると、「これは“ば”なのか“は”なのか」と判断がつかず、そこでまた止まる。些細な判断の連続に、気が付けば1時間が経過している。
「この人、ほんとに人間?」と思う筆跡の謄本に遭遇する日
たまに手書きの原本をスキャンして送ってくる依頼人もいるのだが、その筆跡がもう達筆を超えて芸術の域。読めない。いや、解読不能に近い。これはもう職人の仕業か?とツッコミたくなる文字に遭遇するたび、「司法書士試験より読解力を問われてる気がする」と笑えない冗談をつぶやく。謄本一枚とにらめっこしている自分を、ふと窓ガラスに映った姿で見て、ため息すら出なくなる。
事務員に見せても「ちょっと無理ですね」と即ギブアップ
困った時は、事務員さんに一応見せてみる。でも大抵、「これはちょっと無理ですね」と秒で返される。ふたりして謄本を囲んで、目を細めながら「なんか…ここ、”川田”に見えます?」「いや、“石田”かも?」などと議論する姿は、完全に迷探偵コンビのよう。真剣な話をしているのに、どこかコントみたいな光景になるのが悲しくもおかしい。
二人して拡大コピー機に並ぶ姿がなんともむなしい
最終手段は拡大コピー。それでも読めなければ二段階拡大。コピー機の前で紙を回しては角度を変えて「こっちのほうがマシかも」とか言い合っている姿。書類と格闘しているのか、紙に翻弄されているのか、もはや分からない。コピーの精度に振り回され、気づけば仕事時間の半分をこの謄本に費やしてしまっているという現実に、軽く目眩がする。
法務局で再交付…それすら時間が惜しい
こうなると、いっそ法務局で再発行した方が早いんじゃないかと思う。でも、法務局までの往復1時間、待ち時間20分、戻ってくる頃にはもう午後が終わってる。そう考えると、なんとか手元のコピーで済ませたくなってしまう。結局“何を選んでも面倒”というジレンマ。司法書士という仕事、思った以上に書類との消耗戦が多い。
「ああ今日も午前が潰れる」とスケジュール帳を閉じる
再交付を選んだとしても、その間のスケジュールは全部後ろ倒し。結果、予定していた別の書類作成や相談業務が夜にズレ込む。依頼人には「今日中に対応します」と言っていた自分の首を、自分で締めるような展開になる。そうして、またひとつ「やり残し」が積み重なっていく。何もしてないわけじゃないのに、成果がゼロ。これが地味にこたえる。
それでも前に進むしかない午後三時のコーヒー
結局、午後三時を過ぎた頃、ようやく一段落。読めない謄本コピーに翻弄された数時間を思い返しながら、冷めかけたコーヒーを一口すする。頭の中では次の案件の段取りを考えつつも、体は正直に疲れている。だが誰も代わってはくれない。独りでやるって、そういうことだと知っているから。ぼやきながらでも、手は止めないのが司法書士の性なのだ。
甘いお菓子で一瞬だけ気持ちを持ち直す
冷蔵庫から、昨日コンビニで買っておいたプリンを取り出す。これがささやかなご褒美。甘さで疲れを一瞬ごまかし、「よし、もう一仕事」と自分を奮い立たせる。書類に疲れ、目に疲れ、気力を削られても、戻ってくるのは結局いつものこのデスク。誰も褒めてくれなくても、今日もなんとかやりきった自分には、自分でプリンをあげたい。