本籍に眠る嘘

本籍に眠る嘘

見知らぬ相談者

古びた戸籍謄本を手に

ある日、事務所の扉が重たい音を立てて開いた。入ってきたのは、色味のないスーツを着た女性だった。彼女は迷うことなく、私の前に一枚の戸籍謄本を差し出した。

名前がふたつある女

「この人と、私の本籍が同じになっているんです」と彼女は言った。謄本には彼女とまったく同じ生年月日の名前がもう一人、載っていた。だが、そこに記載された本籍地は、今はもう存在しない村だった。

過去と現在のあいだ

平成の戸籍にない住所

平成以降の戸籍には、その村の地名は見当たらなかった。調べていくと、その地域は昭和の終わりに廃村になり、役所ごと火事で焼けていたことが判明した。

焼失した役所と転籍の謎

火災の直後、一部の戸籍が復元される中、なぜか彼女と似た別人のデータが作られていたらしい。誰かが意図的に、存在しない村にもうひとりの彼女を置いたのではないか。そんな疑念が浮かんだ。

本籍地の影

ふたりの住所が示す共通点

妙なことに、彼女が過去に住んでいた住所も、もうひとりの“彼女”の履歴と重なっていた。まるで鏡合わせのように。

ひとつの本籍にふたつの名

本籍地を中心に、その“二重記載”が生まれていたのだ。意図的な操作が疑われたが、何のために?そして誰が?

サトウさんの直感

わざとらしすぎる依頼書

「この文面、手慣れてますね」とサトウさんが鋭く言った。彼女が示した依頼書には、不自然な言い回しや、過去の法改正を逆手に取った記述が散見された。

戸籍法第十条の罠

「たぶん、戸籍法第十条を使って、記載を再構築したんですよ」とサトウさん。旧戸籍が消失した後、法の隙間をついて新しい戸籍を“創作”することは理論上不可能ではない。

空白の家系図

除籍簿が語るもう一人の存在

旧除籍簿をたどるうちに、“もう一人の彼女”はある時点で記録からもれていることが分かった。役所のミスか、それとも意図的な除外か。

戸籍に記されなかった真実

真実は一枚の私文書の中にあった。養女縁組の記録。つまり“もう一人の彼女”は、養子縁組により分籍され、本来の本籍とは違うルートで作られていた。

本籍地へ

地図にない町と聞き込み調査

私は廃村になった地域を訪ねた。山中にぽつんと残った神社の宮司が、ふたりの女性の写真を見てこう言った。「この人、双子だったんですよ」。

行方を追っていた者

戻った私は、彼女にすべてを話した。依頼者の顔が険しくなる。「やっぱり……あの人、生きていたんですね」。彼女が探していたのは、自分の“影”ではなく、実の妹だったのだ。

やれやれ、、、手間のかかる謎だ

司法書士が明かす過去の仕掛け

偽名、養子縁組、戸籍上の操作――すべてが妹を追えぬよう仕組まれていた。だが、役所の書き損じと、一通の除籍簿が全貌を照らし出した。

重ねられた登記と偽名の帳尻

ふたりは、かつて同じ家に住み、同じ本籍を持っていた。だが、家の事情で片方だけが養女に出され、名前まで変えられた。登記情報と戸籍が交差したとき、その真相が浮かび上がった。

真実の記載

戸籍に眠る嘘を暴く

“嘘の本籍”とされた地は、実は本当の居場所だった。記録だけが嘘をついていたのだ。彼女は妹の居所をついに突き止めた。別の名前、別の人生で生きていたが、血は確かにつながっていた。

本当の依頼人は誰か

驚くべきことに、最初に届いた封書は、妹本人からのものだった。彼女は姉に気づいてほしかったのだ。自分を探し当てられるか――その試練を、記録の迷路の中に隠していた。

最後の登記簿

かすれた筆跡が示す決着

廃村に残された古い登記簿の片隅に、彼女の旧姓が鉛筆で書かれていた。正式な記載ではないが、妹が残したメッセージだったのだろう。

ふたりの本籍地が交わる場所

姉妹は、再び“本籍”の土地で再会した。そこには家はなかったが、確かな“居場所”があった。記録に惑わされても、記憶までは消せないのだ。

静かな事務所にて

コーヒーを淹れるサトウさん

私は重たい身体を椅子に沈めた。「やれやれ、、、ほんと、戸籍ってのは人の人生より複雑だ」。サトウさんは無言で、コーヒーを湯呑みに注いでくれた。

次の事件はもう来ている

そのとき、FAXが一枚届いた。今度は“失踪した相続人”の調査依頼だ。コーヒーを啜りながら、私はカレンダーを見た。週末は、またなくなりそうだ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓