登記簿が語る幽影

登記簿が語る幽影

朝のコーヒーと表題部の違和感

朝、事務所に差し込む光がやけに眩しかった。昨晩の残業がたたって目がしょぼつく。 カップに注いだコーヒーを啜りながら、今日最初の案件に目を通す。 その登記事項証明書には、妙に胸がざわつく何かがあった。

登記申請書に添付された一枚の登記事項証明書

依頼人から届いた書類には、表題部に奇妙な名前が記載されていた。 所有者欄には「山城敬三」という名がある。しかし、どこかで見た覚えがあるような…。 資料棚を漁っていたサトウさんが、「その人、三年前に亡くなってますよ」と呟いた。

記載された「所有者」の名前にざわつく胸

一度死んだはずの人間が登記簿に現れる。それがただのミスであればいい。 だが司法書士の勘が告げていた。「これは面倒なやつだ」と。 登記原因証明情報を見返しながら、思わず「やれやれ、、、」と口をついて出た。

依頼人は現れたか現れていないか

依頼人は一度も事務所に顔を見せていない。電話の声も、どこか機械的で抑揚がない。 残された封筒の宛名も本人の筆跡ではないように思える。 机に残されたコーヒーカップは、冷たく乾いていた。

相談室に残された空のコーヒーカップ

「誰か来てましたっけ?」とサトウさんが聞いた。 たしかに記録はあるが、誰の顔も思い出せない。まるで幽霊と打ち合わせしたかのようだった。 「司法書士って、オカルト担当でしたっけ?」と彼女が皮肉を言う。

サトウさんの冷静な観察力

冷静な彼女は、登記事項証明書の右下にある些細な書き損じに気づいていた。 「この印鑑、二つ前の案件と一致してます。使い回されてる可能性ありますね」 それが偽造の証拠となる第一歩になるとは、このときは気づかなかった。

元所有者はすでに他界していた

役所に問い合わせたところ、山城敬三は三年前に死亡届が出されていた。 にもかかわらず、今月の日付で登記がされているという。 つまり、死人の名義を使った不正登記が行われたことになる。

死亡届の確認と矛盾する登記内容

死亡届の記載者と、今回の申請者は一致しなかった。 「まるで、名探偵コナンの犯人みたいですね。仮面をかぶってる」とサトウさん。 さすがに少年探偵団ほど元気ではないが、私たちも少しは役に立てるかもしれない。

役所との照合で浮かび上がる事実

市役所の担当者によれば、山城という名の死亡は確実に受理されていた。 しかし、登記上は「現在生存中」で登録されている。 どこかに、人為的な操作が加えられた痕跡があるとしか思えなかった。

登記原因証明情報に仕掛けられた罠

細かく読んでいくと、登記原因証明情報には典型的なトリックが仕込まれていた。 日付は全て整合性があるようで、実は別の申請書からコピペされた形跡がある。 いわば、「ルパン三世の偽札編」で使われた手口のようだった。

故意にミスリードさせる記載の数々

住所表記が微妙に古い表現で統一されていた。 現行の住居表示では存在しない「○○町1丁目」が記載されている。 これは古い書類を模倣した証拠と見て間違いなかった。

サトウさんの指摘でつながった断片

決定的だったのは、添付資料の裏紙にあったメモ書きだった。 「再利用分 山城」と書かれた鉛筆文字。それはうっかり者のミスだった。 「こういう雑な犯人、サザエさんのノリですよね」と笑うサトウさんに救われた。

決定的な文言は別紙の裏にあった

その裏紙を提出した司法書士名も確認した。だが、登録番号が実在しない。 「つまり、影武者です」とサトウさんが言い切った。 ここまでの流れで、ようやくピースが揃った。

司法書士としての一手

私は法務局に訂正申出書を提出し、不正の可能性を正式に通報した。 すぐに照会と調査が入り、登記は仮抹消された。 正体不明の依頼人とは、それきり連絡が取れなくなった。

旧姓と筆跡に隠された意図

後日、同じ筆跡で別の案件が出てきた。それもまた死亡者名義の登記だった。 これは明らかな連続犯行。司法書士としての闘いは続く。 「怪盗キッドのように変装しても、筆跡は隠せませんよ」とサトウさんが言った。

夜の事務所に響いた独り言

事件が片付き、静かな夜が戻った。私は一人、冷めたコーヒーを飲みながらため息をつく。 外では猫が鳴いている。あの依頼人も、どこかで笑ってるのだろうか。 「やれやれ、、、また奇妙な一日だった」と、誰にも聞こえないように呟いた。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓