沈黙するPDFの告発

沈黙するPDFの告発

沈黙するPDFの告発

奇妙な依頼

ある雨の日、机の上に置かれていたのは、見慣れた封筒ではなくUSBメモリだった。依頼者の名前はなし。差出人不明のまま、ただ「至急ご確認ください」とだけ書かれた紙が添えられていた。少し気味が悪かったが、好奇心には勝てなかった。

送信者不明のファイル

サトウさんが慎重にUSBの中身を確認すると、そこには一通のPDFファイルが入っていた。「登記に関する重大な不正を知らせます」と冒頭に書かれており、添付された資料は、どこかで見たことのある土地の権利証明書のようだった。だが、何かが違う。

PDFに隠された異常

一見して問題はないように見えたが、細部を確認すると、所有者の名前が微妙に異なっていた。フォントがわずかにずれている。「やれやれ、、、また誰かのイタズラか?」とつぶやくが、サトウさんの目は鋭く輝いていた。

謄本の内容との齟齬

法務局で現地の謄本を確認すると、PDFに記された内容と実際の登記情報に微妙な差異があった。特に名義変更のタイミングが1日ずれており、しかもその日が日曜日であった。「法務局が開いてない日に登記完了?これはおかしいです」とサトウさん。

やけに冷静なサトウさん

「普通、ここで焦るところですよね」とぼくが言うと、彼女は「シンドウさんはいつも焦って失敗するからです」と返す。その冷淡な返事が、妙に心地よく感じる自分に気づき、情けなくなる。サトウさんの推理は、すでに次の段階に進んでいた。

嘘を記録した書類

PDFにはもう一枚、委任状が添付されていたが、それが全ての鍵だった。偽造された署名。しかも、本人の印影がデジタル処理で貼り付けられていることに、彼女はすぐに気づいた。「画像が2ピクセルだけズレてます。素人仕事です」

差し替えられた委任状

事件は思ったよりも根深かった。正規の委任状は別の公証人のもとに保管されており、そこにある原本と今回のPDFでは署名位置がまったく異なっていた。つまり、誰かが正規書類と見せかけたニセのPDFを作成し、取引を進めようとしていたのだ。

過去の登記記録の落とし穴

さらに調査を進めると、数年前の別の物件でも、似たようなPDFファイルが提出されていた記録が見つかった。その物件は現在、持ち主が行方不明となっている。関連性は不明だが、怪しい匂いが漂っていた。

やれやれ、、、この手のパターンか

こういうとき、サザエさんの波平が「バッカモーン!」と叫ぶ姿が脳裏に浮かぶ。いっそああやって怒鳴れれば楽なのに。ぼくは肩をすくめ、「やれやれ、、、この手のパターンか」と天井を見上げた。

閉じられた法務局の午後

午後3時、法務局の窓口が閉まるぎりぎりに滑り込み、過去の登記記録を再確認する。すると、そこにはPDFとは異なる筆跡が確認できた。しかも、紙の端に小さく書かれた数字の羅列がヒントになった。

元野球部の勘が働く

高校時代、キャッチャーだった頃の勘が戻ってきた。小さな違和感を拾い集めて、相手の意図を読む。「これ、受任者の名前の一部が削れてる。スキャナの設定が違うんだ」ぼくは確信した。これが犯人のミスだった。

真犯人の電子署名

ファイルに記録されていたメタデータを解析すると、そこに一人の司法書士の名前があった。以前、別件でトラブルを起こして登録抹消された人物だ。署名を消したつもりでも、ファイルには痕跡が残っていた。

小さなPDFの大きな罪

たった一つのPDFに仕込まれた改ざんが、複数の不正登記に関与していた証拠となった。司法書士界隈で「デジタル偽装」が静かに進行していたのだ。サイバー犯罪の時代は、こんな地方にも忍び寄っていた。

サトウさんの鋭い一言

「司法書士は書類の番人じゃないですよ、真実の番人です」サトウさんはパソコンを閉じながら言った。彼女の声に、どこか怒りと哀しみがにじんでいた。こういうとき、ぼくは何も返せない。

シンドウのどんでん返し

最終的にそのPDFを証拠に、警察と法務局が動き、偽装工作は白日のもとにさらされた。犯人はまさか自分の電子署名が残っているとは思っていなかったのだろう。「うっかりは、こっちの得意分野だよ」と、心の中で呟いた。

ファイルが語った真実

沈黙を守っていたPDFは、実は真実を語る最も雄弁な証人だった。誰かが書いた嘘を、誰かが暴く。その間にいるのが、司法書士という存在かもしれない。今日もまた、ファイルの中にある「嘘」と向き合う日々が続く。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓