登記簿に眠る復讐者

登記簿に眠る復讐者

登記簿に眠る復讐者

忘れ去られた名義

「先生、この土地の名義変更、ちょっと変ですよ」
朝から事務所に現れた依頼人が差し出したのは、昭和の匂いがする登記簿の写しだった。相続の話かと思いきや、記載された所有者はすでに20年前に死亡しているはずの人物だった。
しかも、その後の登記が一切行われていないというのが異常だった。

依頼人は口を閉ざす

女は名を田所ミナと名乗った。物腰は柔らかいが、肝心の「なぜ今になって名義変更なのか」という点には、まるで答えようとしない。
「まあ、ちょっと事情があって……」
そう言って目をそらす彼女の視線の先には、事務所の窓から見える曇り空があった。

サトウさんの冷静な分析

「この登記簿、平成に一度訂正申請が出されてます」
パソコンの前で目を細めたサトウさんが、無表情で告げた。
「訂正内容は“相続関係の記載誤り”。けど、その申請は取り下げられてるんです。何者かが途中で手を引いた形ですね」
まるで何かを隠そうとしたような不自然な動きが見え隠れしていた。

隠された相続と時効の壁

田所ミナが言う「名義変更」は、単なる法的手続きではなかった。登記簿に残された古い抵当権が、いまだに抹消されていなかったのだ。
「抵当権って、普通なら債務が消えた時点で抹消しますよね。これ、意図的に残されてる気がします」
時効の成立を待っていたような形跡があった。誰が何のために。

旧所有者の謎の失踪

かつての所有者、田所ケンゾウは1999年に突然失踪していた。家族は警察に捜索願を出したが、事件性がないと判断され、数ヶ月で打ち切り。
「今思えば、この失踪も自然じゃないですね」
サトウさんが手元のファイルを閉じる音が、妙に重く響いた。

法務局の片隅にあった手紙

「シンドウ先生、これ見てください」
数日後、法務局の古い保管資料の中から一通の封筒が見つかった。中には筆ペンで書かれた手紙が一枚。
“もし私に何かあれば、この土地の登記簿が真実を語るだろう”――差出人は田所ケンゾウ本人。そして、宛先は「シンドウ司法書士事務所」とあった。

復讐のための仮登記

「これは……仮登記が復讐の道具として使われたパターンですね」
田所ケンゾウは、かつて兄に土地を騙し取られそうになった。その怒りが、彼を“法の内側での復讐”に走らせた。
仮登記を利用し、正規の登記ができないように細工をしたのだ。

うっかりシンドウの逆転推理

最初は見落としていた。「仮登記」の登記原因が“貸金返還請求仮処分”となっていたことに、ようやく気づく。
つまり、兄への復讐として、架空の債務関係を作り、土地を差し押さえたまま“時効”の成立を待っていたのだ。
「やれやれ、、、また紙一枚に踊らされたか」とシンドウはため息をついたが、その顔には少しだけ勝利の笑みがあった。

法律の隙間に落ちた怒り

田所ミナは田所ケンゾウの娘だった。彼女は父の意思を継ぎ、正当に土地を取り戻すため、あえて依頼人を装いシンドウを試していたのだった。
「父は言ってました。“法は牙にもなる”って」
復讐は終わった。だが、それは“合法的”に成し遂げられたのだった。

サトウさんの一言

「結局、法律を使う人間次第ってことですよね」
冷ややかなトーンで放たれたその言葉は、妙に胸に刺さった。
シンドウはコーヒーをすすりながら、心の中でつぶやいた。「やれやれ、、、ほんと、正義ってやつは面倒だ」。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓