地図が暴いた嘘
登記手続きというのは、何も知らない人から見れば単なる書類のやりとりにしか見えないだろう。だが、実際は人間の欲と嘘が複雑に絡み合う、ちょっとした推理劇の連続だ。今日の依頼も、まさにそんな香りがした。
朝から気が重い訪問者
ドアを開けると、大柄なスーツ姿の男がいた。名刺には「株式会社ムラカミ不動産」とある。地元ではそこそこ知られた顔だ。だが、口を開いたとたん、妙な緊張感が走った。
依頼者は地元の不動産会社社長
「ちょっと登記で確認してほしいことがあってね…」と男は言った。内容は、ある土地の所有権に関するものだった。だが、提出された書類の一部に、見覚えのある名前があった。
登記簿の矛盾と見覚えのある名前
その名前は、依頼者の兄とされる人物のものだった。ところが、法務局の記録には、数年前にすでに相続放棄がなされた旨の記録が残っている。何かが、おかしい。
衛星画像が語る奇妙な違和感
事務所で資料を整理していると、後ろからサトウさんの声がした。「先生、Googleマップのストリートビュー見ました?」いつもの冷静な声に、私は少しだけ不安を感じた。
Googleマップのストリートビューを拡大すると
問題の土地を確認してみると、確かに建物の前に人影があった。画質は粗いが、その立ち姿、髪型、そして杖のようなものまで——あれは、依頼者の兄ではないのか?
映っていたのは依頼者の兄だった
まさかと思った。だが、詳細を調べていくうちに、兄は失踪したことになっていた。死亡届も出ていなければ、住民票も移動していない。これは、死人が歩いているレベルの不整合だ。
土地売買の裏に潜む隠された意図
相続放棄のはずの兄が土地の前に立っている。これは偶然では済まされない。依頼者はこの土地を第三者に売却しようとしており、登記の整合性を利用して利益を得ようとしていたのかもしれない。
数年前の相続放棄とその証明
戸籍を洗い直し、関係者の証言も集めてみる。すると、兄の署名入りの放棄申述書が、実は偽造の可能性があると判明した。筆跡鑑定まで必要になるとは思ってもみなかった。
まるでルパン三世のトリックのような仕掛け
失踪した兄を死んだことにして、自分に有利な形で登記を進めようとした依頼者の計画。だが、まさかGoogleマップのストリートビューが、その野望を阻むとは思わなかっただろう。
サトウさんの冷静な一言
「これ、訴訟になりそうですね」サトウさんの言葉は、いつもながら冷たいほどに的確だ。私は、もう少し気の利いたセリフを返したかったが、何も思い浮かばなかった。
一枚の固定資産評価証明書に込められた鍵
さらに裏付けとなる資料を探していたところ、役所から取り寄せた固定資産評価証明書に、兄の名義で固定資産税が支払われていた痕跡を見つけた。完全に生きている証拠だ。
やれやれというしかない現場検証
結局、私はサトウさんと共にその土地へ向かうことになった。現地で確認してみると、敷地奥にある古びた物置に鍵がかかっておらず、中には古い帳簿や手紙の束があった。
古い物置に残されたもう一つの地図
その中に、手書きの地図があった。それはどう見ても、兄が管理していた記録の一部であり、隣接する土地まで含めた広大な計画図だった。兄がこの土地に未練を残していた証だ。
過去の謎と現在の真実
事務所に戻ってから、私は関係各所に連絡を入れ、報告書をまとめた。やれやれ、、、また面倒な仕事を拾ってしまったらしい。こういうのは探偵の仕事ではないのかと思いたくなる。
証拠は空からやって来た
証拠は、衛星だった。Googleマップが撮った、たった一枚のぼやけた写真。それが、法の隙間を縫おうとした男の嘘を暴いた。結局のところ、真実は空からでも見えるのだ。
兄弟の対立と不動産の罠
後日、兄が警察に出頭したという報せが入った。あの写真を見せられて観念したらしい。不動産というのは、時に人の欲望をむき出しにするものだ。司法書士としては見慣れた構図だった。
結局損をしたのは誰なのか
損をしたのは兄か、それとも弟か。いや、土地に執着した彼ら自身が、人生そのものを削っていたのかもしれない。登記簿にはその傷跡だけが静かに残された。
サトウさんの勝利宣言と無言の帰宅
「先生、あの人、登記は一応自分でやるって言ってましたよ」サトウさんは皮肉っぽくそう言って、さっさと帰り支度を始めた。私はその背中を見ながら、またため息をついた。
私はと言えば夕方のビールを握りしめて
やっと一息つけると思って買ったビール缶を握りしめながら、私は窓の外を見た。今日も空は澄んでいた。衛星が、また誰かの嘘を見つけているかもしれないと思いながら。
登記簿に残った小さな傷
事件は終わったが、登記簿にはその痕跡がしっかりと刻まれている。司法書士という職業は、そんな過去の断片を記録する仕事でもあるのだ。明日も、また別の物語が待っている。