朝のコーヒーと不穏な封筒
サトウさんの冷たい視線と地目変更の相談
朝のコーヒーがやけに苦く感じたのは、机の上に置かれた一通の封筒のせいだ。差出人不明、手書きの宛名、そして裏には何も書かれていない。開けてみると、地目変更の相談書と、古い土地の図面が同封されていた。
「これ、何か変ですよ」とサトウさんが言った。彼女の目は、いつもながら冷静で鋭い。「地目が宅地に変更されてるんですが、所有者は三年前に亡くなってるはずです」
司法書士として、こういう矛盾には慣れている。とはいえ、死者が地目を変更するというのは、ちょっとホラーが過ぎる。
古い登記簿に残された不可解な記録
亡き所有者と謎の相続人
登記簿を確認すると、確かに所有者は故人になっていた。だが、その後の変更履歴には地目変更が反映されている。申請者の欄には、相続人と思しき名前があったが、戸籍を追ってもそんな人物は存在しない。
「これ、ゴースト相続人ですね」とサトウさんがぼそりと呟く。その響きがあまりにも名探偵コナンっぽくて、思わず笑いそうになった。
だが、事態は洒落にならなかった。誰かが、死者を利用して土地の性質を変えようとしている。理由はひとつしかない。土地を売って、金に換えるためだ。
現地調査と朽ちかけた井戸
「使われていない土地」に漂う違和感
現地に足を運ぶと、そこには雑草が生い茂り、今にも崩れそうな井戸がぽつんと佇んでいた。周囲には人の気配もなく、まるで時が止まっているようだった。
「井戸のフタ、少しズレてますね」とサトウさんが言う。うっかりしていた。彼女がいなければ見逃していたかもしれない。
井戸を覗き込んだ瞬間、鼻をつく異臭が鼻腔を刺激した。土の匂いに混じって、どこか腐敗したような、生臭い香りが漂っていた。
一通の匿名メールが示す地図
「やれやれ、、、」と呟くしかなかった午前3時
夜中の3時、パソコンに届いた一通のメール。差出人不明。添付されていたのは、件の土地を指し示す地図と、「ここに秘密がある」という短い文だけ。
やれやれ、、、寝不足の身には刺激が強すぎる。だが、放っておくわけにもいかない。司法書士は、書類だけを扱ってるわけじゃないのだ。
翌朝、再び現地を訪れると、近所の住人が「夜に誰かが井戸のあたりを掘っていた」と証言した。確実に、何かが隠されている。
夜の法務局で見つけた修正履歴
地目変更申請書の筆跡が違う
法務局で取り寄せた地目変更の原本には、筆跡に不自然な点があった。前回の申請と明らかに文字の癖が違っていた。まるで誰かが偽造したような、雑な字だった。
さらに調べていくうちに、ある司法書士の名前が浮上した。過去にも、複数の怪しい地目変更に関わっていた人物だ。
サトウさんが、その名前を検索して目を見開いた。「この人、二年前に失踪してます」。
サトウさんの推理と消された登記
「死後の申請」による登記のトリック
サトウさんの推理はこうだ。失踪した司法書士が、何者かに偽造された。死んだ所有者の名前を使って地目変更を行い、あたかも生前の意志であるかのように装ったのだ。
その背後には、土地の用途を変え、高値で売却しようとする不動産業者の影があった。幽霊のように記録を操ることで、利益を得ていたのだ。
私が動いたことで、登記が取り消され、関係者には調査の手が入ることになった。司法書士としての矜持を、久しぶりに思い出した気がした。
真相と静かな逮捕劇
地目の裏にあった保険金と未登記建物
調査の結果、井戸の下には人骨が見つかった。失踪していた司法書士本人だった。事件は殺人にまで発展し、地目変更を依頼した不動産業者が逮捕された。
未登記の建物を保険金目的で燃やし、土地を売るために地目を変更。司法書士を消すことで、すべての証拠を消そうとしたが、わずかな筆跡がすべてを暴いた。
地目が告げたのは、ただの用途変更ではなかった。そこに眠っていたのは、罪と死の匂いだった。
帰り道とコンビニのからあげ棒
なんだかんだで今日も仕事が終わった
帰り道、コンビニでからあげ棒を一本買った。サトウさんは「揚げ物ばっかり食べてるとまた太りますよ」と呆れていたが、彼女の目は少しだけ優しかった。
事務所に戻ると、夕焼けが窓から差し込んできた。世の中にはまだまだ解決されていない闇がある。でも今日だけは、少し誇らしく眠れそうだった。
やれやれ、、、明日もまた登記との格闘だ。