監査役が座らなかった椅子

監査役が座らなかった椅子

監査役が座らなかった椅子

嵐の前の監査報告書

春先の風が強い朝だった。古びた会社の応接室に、ぽつりと一脚の椅子が残されていた。 その椅子は、今日の主役が座るはずのもの――だが、肝心の人物は来なかった。 「またですか、三度目ですよ」とサトウさんが呟いた。監査役が連絡もなく姿を見せない。

社長からの奇妙な依頼

「彼が来ないのには、理由があるんです。だが公にできない」 依頼人である地元製造業の社長は、語るべきことを語らず帰っていった。 シンドウは重い溜息をついた。「やれやれ、、、また一波乱か」

空白を埋める議事録の影

提出された株主総会議事録には、確かに監査役の名前があった。 だが、その署名の筆跡は、去年の書類と微妙に違っていた。 「この押印、朱肉の色が不自然ですね」とサトウさんが指摘した。

うっかりが導く通帳のヒント

「あれ、この通帳、ここの日付だけ飛んでないか?」 ふとした違和感から、シンドウはある1ページをじっと見つめた。 それは、不審な振込が記録されていた日だった。

会社の金が向かった先

その振込は、監査役個人ではなく、地方にある名義不明の不動産管理会社宛だった。 「名義貸しの可能性もありますね」とサトウさんが口にする。 金の流れを追えば、不正の糸口が見えるのは明らかだった。

遺されたメールとカレンダー

社内ネットに残されたメールログから、監査役と社長の間に確執があったことが判明。 「これは脅迫に近いですね」とサトウさんが呟いた。 カレンダーには“最終確認”の文字があった。それが、最後の痕跡だった。

潜入調査は法務局の帰り道に

「どうせ法務局に行くなら、ついでに支店に寄ってみますか」 そう言って訪れた支店の倉庫で、破棄されたはずの旧帳簿を発見した。 それは社長室のキャビネットと内容が一致しない不正の証拠だった。

黒幕の影と司法書士の一手

すべての決裁は、監査役の印なしで処理されていた。 形式上は問題ないが、実質的には「いてもいなくても変わらない監査役」だった。 「逆にいなかったからこそ、悪事ができたんですね」

監査役の行方

監査役は自ら姿を消していた。 サトウさんの調査で、海外へ渡航した記録が見つかった。 内部告発をしようとしていた矢先、身の危険を感じたのだろう。

最後に残った椅子の意味

監査役の椅子は、その日も空のままだった。 だが、その空白が暴いたのは、会社の根深い病だった。 「結局、一番喋ったのは、座らなかった椅子だったわけですね」 サトウさんの一言に、シンドウは笑って頷いた。少しだけ、風が止んだ気がした。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓