甘い密約と固い証明

甘い密約と固い証明

バースデーケーキが届いた朝

届いたのは一つのホールケーキ

朝、事務所のドアを開けると、受付の机にホールケーキの箱が鎮座していた。宛名には「司法書士事務所 シンドウ様」とだけ書かれており、差出人は不明だった。ケーキ屋のロゴも見覚えのないものだ。

差出人は不明だった

送り状に書かれた電話番号も使われていなかった。まるで匿名の誰かが、何かの意図を持って送りつけてきたようだ。妙に整ったデコレーションの中心には、数字の「48」が燭台で飾られていた。

相談者は遺言の準備中だった

奇妙な依頼と公正証書の作成

その日の午後、遺言公正証書の作成依頼で、地元の元建設業者・遠山が事務所を訪れた。内容は至って普通で、財産は全て姪に相続させるというものだった。ただ一つ妙だったのは、「48歳の誕生日に渡してほしい」と明記されていた点だ。

遺言に関する一つの但し書き

但し書きにはこうあった。「誕生日にケーキを受け取った者に開示せよ」。それが遺言執行の条件だという。いやに具体的な条件だが、法的には問題ない。俺はその文言を確認して、公証役場へと提出した。

サトウさんの塩対応と違和感

気づいた小さな異変

ケーキを見たサトウさんは、「誕生日、今日じゃないですよね」とあっさり言った。まさか俺の年齢を把握してるとは思わなかったが、数字の「48」に違和感を抱いたらしい。俺はまだ45だ。

事務所の机に残されたメモ

その夜、事務所で片付けをしていると、机の引き出しに小さな付箋が挟まっているのを見つけた。「ケーキは切るな」と書いてある。誰が書いたのか、いつ置いたのか不明だ。だが、これは警告だと直感した。

蝋燭の数に隠された暗号

年齢と一致しない数字

ロウソクは確かに「48」となっていた。俺は45だ。受取人の年齢と仮定すれば、このケーキは誰か48歳の人物に向けたものだったことになる。だとすれば、公正証書の中の条件とも符合してくる。

ケーキに添えられた手紙の中身

箱の底に、ようやく一枚のカードが貼られていた。「最後の一切れはあなたに」。差出人名はなかったが、筆跡はまるでマンガの怪盗が残す挑戦状のように洒落ていた。まさかと思い、冷蔵庫の中をもう一度確認した。

過去に作成されたもう一通の公正証書

二つの証書の食い違い

俺の記録を調べていくと、同じ遠山の名で半年前にも遺言公正証書が作成されていたことがわかった。そこでは、財産は別の人物、弟に相続させる内容になっていた。二つの証書は明らかに矛盾していた。

偽造か変更かそれとも、、、

だが、署名と押印は本物だった。つまり、彼が意図的に内容を変えたことになる。遺言内容を変更する自由はある。問題は、その条件を利用し誰かが仕掛けてきたという点だ。

元野球部の勘が働く

甘い香りの正体

ケーキをよく見れば、中心部が微妙に盛り上がっている。そこだけスポンジの層が異常に厚い。俺は道具箱からカッターを取り出し、慎重にその層を切り裂いた。中から出てきたのは小型のUSBメモリだった。

サザエさん方式でひらめいた一手

「バースデーケーキに隠し事って、サザエさんの年賀状ネタかよ」と独りごちていたら、ピンときた。USBの中には、遺言と同じ文面の文書ファイルが2本。しかも、1本は日付が改ざんされていた。

やれやれ、、、また面倒な展開だ

しかしそれが事件の核心だった

USBの中には動画ファイルもあり、遠山が「弟には絶対に渡すな」と語る映像が収録されていた。これは、公正証書を補完する証拠だ。やれやれ、、、結局ケーキの中身まで解析する羽目になるとは。

まさかの人物が黒幕に

映像の中で遠山は、弟の経営するNPOが詐欺まがいの事業をしていると語っていた。つまり、彼は最後に真実を証明する手段としてケーキに記録を託したのだ。誕生日という偽装の裏で。

公正証書の真の目的

それは誕生日を隠れ蓑にした取引

条件を誕生日にしたのは、法的拘束力と同時に感情的な演出でもあった。姪への愛情、弟への警告、そして司法書士への信頼。それら全てがケーキに詰まっていた。

署名欄に潜んだ細工

細部まで見直した公正証書のコピーには、筆跡のわずかな違いがあった。おそらく弟が偽造を試みたが、正式なものには手が出せなかったのだろう。だが、それに気づけたのはケーキのおかげだった。

ケーキに込められた思惑

甘さと嘘の絶妙なバランス

このケーキは甘かったが、その中身は苦かった。まるでルパンが次の盗みの前に残す名刺のように、挑発的でありながらも優雅な仕掛けだった。遠山は、自らの遺言を守るため最後のいたずらを仕込んでいたのだ。

ろうそくの火が消えるとき

サトウさんが静かにろうそくの火を吹き消した。「45のまま終わらせておきましょう」とだけ言った。彼女なりの皮肉だ。俺は笑って首を振り、冷蔵庫を閉じた。

事件の終幕と司法書士の役割

真実を記すという仕事

司法書士という仕事は、ただ書類を作るだけじゃない。そこに込められた意図や真実を見抜く目も必要だ。俺のうっかりも、時には役立つこともあるらしい。

サトウさんの一言に救われて

「でも、ケーキの味は本物でしたよ」。サトウさんのその一言に、少しだけ救われた気がした。書類の山の中にも、たまには甘い話があるもんだ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓