補正の扉が閉じたとき
登記所の朝は静かに始まった
登記所の玄関が開く音と同時に、私は一枚の補正通知書を握りしめて中に入った。涼しげな顔のサトウさんがすでに事務所の机に座っている。今日もきっちりとアイスコーヒーが用意されていたが、それは苦い一日を予感させるには十分だった。
赤ペンと補正の山
机の上には、担当官の修正指示がびっしりと書き込まれた申請書が積み上げられていた。「こりゃもう、原型残ってないな……」とため息をつくと、サトウさんが無言で別のファイルを差し出す。やれやれ、、、これで何通目だろうか。
奇妙な封筒が差し戻された
その中の一通、封筒だけが明らかに異質だった。宛名は手書きで、差出人の欄が空白。しかも封が開けられた形跡がない。なのに「補正済」の朱印が押されていた。これは、、、誰かが何かを隠している?
密室になった相談室
登記官に確認しようとすると、相談室のドアが施錠されていた。職員に尋ねても「今朝は誰も使っていないはず」と言うばかり。まさか、密室事件の始まりか?司法書士の出番、、、のような気がしてきた。
消えた申請者
補正通知に記載されていた申請人、ヤマシタトオルという人物に連絡を試みたが、電話は不通、住所は存在せず。しかも、その登記はなぜか処理済になっていた。「まるで怪盗キッドが書類を書いたみたいだな」私はつぶやいた。
司法書士シンドウのため息
「まったく……登記官もノーチェックかよ」とぼやくと、隣でサトウさんが「そのための司法書士でしょう」と一蹴してくる。やれやれ、、、立場がない。私は補正済と記載された書類の筆跡に目を凝らした。
サトウさんの冷静な指摘
「この“済”の字、他と違いますね」と彼女は言った。「多分、誰かが勝手に押したものです」。つまりこれは、正規の補正処理ではない。密室、偽造、そして消えた申請人。これでピースが揃った。
登記簿の余白にあったもの
登記簿の備考欄に小さな走り書きがあった。「地目変更予定」。本来この登記では出るはずのない文言。ヤマシタが持ち込んだ申請書には、それに関わる一筆があったが、それだけが抜き取られていた。
誰が最後に密室に入ったか
登記所の出入記録を調べると、朝一番に「受付担当」の名札をつけた人物が相談室に入っていた。しかし実際の受付担当はその時間、遅刻していた。つまり、何者かが偽装して相談室に入ったということだ。
やれやれ、、、印鑑の謎までか
補正済と記された書類の印鑑は、私が過去に扱った別案件のものと一致していた。申請書を偽装した者は、過去に私の事務所に関わった人間、、、それは先月退職した元補助者のハセガワだった。
見落とされた補正書類の真実
実は、その登記には筆界に関する重大な問題があった。ハセガワはそれを知っていて、補正で誤魔化し、裏で買収者と手を組んで地目変更を急いでいたのだ。私の印鑑を使えば、正規のものとして通ると思っていたのだろう。
サザエさん式のすれ違いトリック
まるでサザエさんの3分サスペンスのような間抜けな話だった。補正室に入ったものの、内鍵が壊れていて外から開かなくなっただけ。犯人は焦って脱出しようと窓から抜け出し、その後の登記所が混乱した。
サトウさんの推理が炸裂する
「結局、密室だったのは“相談室”じゃなくて、“あなたの心の準備”だったんですよ」とサトウさん。言葉はきついが、今回も彼女の推理が的中した。印鑑偽造と補正なりすましは、無事警察へ通報されることになった。
野球部魂が見せた逆転劇
私は意を決して、ハセガワに会いに行った。「俺の印鑑で悪事をするのは、絶対許さない」。打たれ弱くても、土壇場で逆転を狙うのが野球部だ。彼の目が一瞬、動揺で揺れたのを見逃さなかった。
犯人の目的と悲しい動機
ハセガワは、母親の介護費用を理由に金を受け取っていた。「わかってた。でも、止められなかった」と語る彼の姿は、どこか哀しかった。法律は情を裁けない。私は一言だけ「もう、補正はできないぞ」と言った。
そして補正依頼は無事通った
問題の申請書を再提出し、正規の手続きを踏んで補正は完了した。担当官は「今度は大丈夫ですね」と苦笑いする。私はと言えば、コーヒーをすするサトウさんの横で、書類を確認しながらまた一つ、深いため息をついた。