はじまりは一通の通知書
古びた封筒と買戻権の行使
机の上に置かれた分厚い封筒には、黄ばみと湿気の跡があった。依頼人は年配の男性で、亡くなった父が数十年前に売却した土地建物を、買戻ししたいという。法的には可能だが、時効の問題が絡みそうだった。
依頼人の不自然な言動
依頼人の説明には不自然な点が多く、資料もすべてコピーだった。正本の登記識別情報は「焼失した」とのこと。だが焼け跡もない家で、何が燃えたというのか。私は妙な胸騒ぎを覚えながら、調査を開始することにした。
サトウさんの冷静な推理
登記簿に潜む矛盾
「この不動産、以前に一度、二重譲渡されています」 モニターを見つめながら、サトウさんが淡々と言った。私はうっかりしていた。確かに、同日付で異なる名義への移転が記録されていた。登記簿が叫んでいる。「何かがおかしい」と。
過去の所有者に隠された関係
所有者履歴を辿ると、ある名字が何度も登場することに気づく。どうやら登記上では無関係に見えて、実は一族で持ち回していたらしい。「やれやれ、、、」と私は書類の山をかき分けながら、昭和の香り漂うドラマに巻き込まれた気分だった。
現地調査と現れた謎の隣人
「あの家は呪われている」と囁く声
現地に足を運ぶと、隣家の老婆が話しかけてきた。「あの家はね、昔から呪われてるのよ。買った人みんな、不幸になるんだから」。昭和の怪談に出てきそうな話だが、彼女の目は妙に真剣だった。
残された手紙と火災の記録
物件の床下から、焦げた手紙の一部が見つかった。差出人の名前は、依頼人の亡き父の弟——つまり叔父だった。手紙には「兄貴を許せない」と書かれていた。昔、何があったのか。その手紙の火傷が、家族の闇を物語っていた。
元所有者の突然の死
司法書士が見抜いた遺産トリック
ほどなくして、元の所有者が急死したとの連絡が入った。私は直感した。これは偶然ではない。遺言書も登記識別情報も見当たらず、代襲相続人がいない——それを狙っていたのだと。
やれやれ、、、やっぱり巻き込まれたか
夜の事務所、私はひとりソファに沈んでつぶやいた。「やれやれ、、、やっぱり巻き込まれたか」。どこかで見たような怪盗漫画の主人公気取りだが、私はタートルネックも赤いジャケットも持っていない。
買戻しの真意と復讐の系譜
20年前の事件と姉弟の誓い
調査の結果、依頼人は実子ではなかった。20年前の火災で死んだとされていた弟が、他人の戸籍を利用して別人として生きていた。そして今、兄が父の遺産を独占していたと信じ、買戻しで全てを奪い返そうとしていた。
法の盲点を突く巧妙な罠
買戻権の行使自体は合法に見えるが、そこには一連の虚偽申請と、登記識別情報の偽造が絡んでいた。民法の外縁を巧みに滑るような構図。まるでサザエさんに出てくる詐欺師が、波平の留守中に書類を盗むような手口だった。
サトウさんの逆転の一手
登記の時効がもたらした運命
「20年を超えると、買戻しは時効です」 サトウさんは冷静に切り出した。依頼人の主張は数カ月足りなかった。それだけで、この復讐劇の法的根拠は崩壊する。私はその理論武装をもとに、登記官に申述書を提出した。
司法書士としての正義
「復讐も買戻しも、法に則る限りにおいて意味がある」 依頼人の嘘を暴いたとき、彼は黙って立ち去った。私はいつものように、事務所に戻って申請書をプリントアウトした。事件が終われば、また日常が始まる。そんなものだ。
事件の終焉と誰にも言えない結末
静かに閉じる買戻しの権利
登記簿から買戻特約の文字が消えるとき、誰かの執念も一緒に消える。だがそれは、またどこかで別の形となって現れるかもしれない。権利と復讐の境界は、時に限りなく近い。
またひとつ、秘密が土地に埋もれていく
その後、あの家は別の若い夫婦に売却された。何も知らず、彼らはリフォームを始めている。私は登記簿を見ながら、そっとため息をついた。秘密というのは、土地の下に埋もれるものなのだ——文字通りに。