仮登記が招いた死

仮登記が招いた死

登記簿に潜む異変

依頼人は突然やってきた

その日、事務所の扉を開けて入ってきたのは、紺色の作業着を着た中年男性だった。 手には古びた登記事項証明書と、数枚の紙資料を握りしめていた。 「兄貴が死んだんですが、なんか変な仮登記が残ってて……司法書士さん、見てくれませんか」

「仮登記」の一点を見つめる目

僕は資料に目を通すと、ある一行で眉をひそめた。 そこには数年前にされた「所有権移転仮登記」の記載。だが、登記原因が曖昧すぎた。 「これ、売買?でも金額ゼロ円って……無償譲渡扱いか?」僕の声にサトウさんがちらりと目を向けた。

古びたアパートと遺産の行方

無償譲渡か売買か

問題の物件は、駅から徒歩15分の木造アパート。築50年超、入居者はゼロ。 「兄貴が勝手に他人にあげたんじゃないかと」と依頼人は不満そうに呟いた。 だが、無償譲渡ならその証拠が要る。仮登記の裏には、誰かの意図が見え隠れしていた。

所有権の影にひそむ思惑

登記済証を預かったとき、僕は違和感を覚えた。表紙が異常に新しい。 サトウさんが静かに言った。「この印紙、発行日が死亡日より後ですよ」 なるほど、死人の名義で新たに何かが動いた可能性がある。サザエさんのカツオのようなイタズラでは済まされない。

サトウさんの冷静な推理

「これ、どう見ても変ですよ」

サトウさんは登記原因証明情報をじっと見つめた。 「受贈者の印鑑証明が無いし、委任状も別人の署名になってます」 「つまり、偽造の可能性……?」と僕が言うと、「可能性じゃなくて、確定ですね」と即答された。

塩対応にひそむ優しさ

「もうちょっと資料整理してから来てください」と依頼人にキツく言うサトウさん。 だが帰り際、彼女はこっそりメモを渡していた。「役所に問い合わせたら、過去帳のコピーもらえます」 やれやれ、、、ツンデレかよ、と思いつつも助けられてばかりだ。

被相続人の謎の生前契約

偽造か正当な意思か

仮登記の原因は「贈与契約」となっていたが、証明するものは一切なかった。 しかも登記申請が行われたのは死亡の直前。文字通り“死に際の譲渡”。 しかし生前の意思が確認できる文書も日記もなかった。

サザエさんのようにのほほんとはいかない

「まさかの仮登記の逆襲ですね」と依頼人が言った。 カツオが“かくし芸大会”で調子に乗るのと同じくらい、こういう相続絡みは揉める。 「えらいもん残してくれたな、兄貴よ」と彼はため息をついた。

登記済証が語る過去

なぜか差し替えられた表紙

事務所でスキャンした登記済証を拡大すると、製本の綴じ部分にのりの剥がれた跡が。 「中身は古いけど、表紙は貼り替えですね」とサトウさん。 表紙だけ取り替えて、まるで新しい登記証明書に見せかけていたのだ。

判子一つの重み

調査を進めるうちに、譲受人の印鑑証明書が区役所にないことが判明した。 「死人の契約書に、生きてない受贈者の印鑑が使われてる……」 「つまり、登記自体がフィクションですね。まるで怪盗キッドの変装みたいな話ですよ」

管轄法務局の小さなほころび

やれやれ、、、役所も人間だ

僕は法務局に電話を入れ、事情を話した。 担当者が小声で言った。「実はその申請、当時新人職員が受けたようで……」 やれやれ、、、現場はどこもギリギリだ。

誰が仮登記を仕掛けたのか

突き止めたのは、隣町の行政書士だった。 被相続人に代わり書類を用意し、あたかも正当な登記であるように偽装していた。 「でも、印鑑が偽物と分かった時点で、全部ひっくり返せます」とサトウさんが言う。

過去帳と照合された戸籍

「相続人はいません」その言葉の真意

戸籍を何代も遡ると、実は認知されていない非嫡出子が存在していた。 「それ、隠されてた可能性高いですね」とサトウさんがポツリ。 仮登記の裏に、実は相続排除の企みがあったことが判明した。

サトウさんの一喝で事態が動く

役所に行きたがらない依頼人に対し、サトウさんはピシャリと言った。 「行かないなら、これ以上の調査はムダです」 その剣幕に押され、彼は重い腰を上げた。

逆転の決め手は登記原因証明情報

元野球部の勘が光る

僕はふと、手書きの登記原因証明情報の筆跡に見覚えがあることに気づいた。 高校の野球部で書類係をやっていた頃の後輩、名前も一致していた。 「こいつが書いたな」と確信が走った。

紙一枚で暴かれた虚構

その後輩を訪ねて話を聞くと、「頼まれてつい…」と白状した。 報酬はわずか3万円。だが、それが仮登記偽造の決定的証拠となった。 紙一枚が、法の秩序を揺るがす。なんとも皮肉な話だ。

解決と告白

被害者が残した最後のメモ

部屋の片隅から出てきたノートにはこう記されていた。 「このままだとアイツに全部取られる。だから仮登記を使った」 遺書ではなかったが、その一行が真実を物語っていた。

サトウさんのくしゃみで終わる静寂

報告書をまとめ、依頼人に提出し終えたところで、サトウさんがくしゃみをした。 「すみません、ホコリっぽくて」 その音が、張りつめていた空気を少し和らげた。

残された書類とこれからの日々

シンドウの机に積もる埃

事件が終わっても、机の上にはまだ処理しきれない書類の山。 「こっちは生きた人間の話か……」と呟いてから、僕は書類に手を伸ばす。 やれやれ、、、息つく暇もない。

それでも登記は進んでいく

仮登記は抹消され、法務局にも是正が入った。 正義とは、地味で、時間がかかって、手間ばかりかかるものだ。 だが、僕たち司法書士がやらなければ、誰がやるんだろうね。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓