登記簿が暴いた失踪の真相

登記簿が暴いた失踪の真相

はじまりは一通の内容証明郵便

依頼人の不安げな表情

「この内容証明、兄から来たって言うんですけど……兄は十年前に行方不明になったんです」。 依頼人の女性は細い指で茶封筒を差し出し、目を伏せた。 封筒の角は擦れており、差出人欄には名前しか書かれていない。

差出人不明の通知の中身

通知には、実家の土地についての所有権確認を求める文言があった。 そこには「すぐに連絡しなければ法的手段に出る」とも書かれていた。 だが不思議なことに、押印された名前には見覚えがあるが、筆跡が違っていた。

失踪した兄と名乗る人物

十年前の家族の断絶

依頼人の兄は、借金を苦にして家を出たまま、消息を絶ったという。 その後、家族の誰にも連絡がなかったため、死亡届の提出も考えたほどだという。 そんな兄が今になって、登記の話で戻ってくるとは、唐突すぎる。

名前だけが一致する謎

内容証明に記された名前はたしかに失踪した兄と同じだった。 しかし、調査してみると、その人物は三年前に別の市で法人登記を行っていた。 失踪後に、何の問題もなく事業を始めた?そんなことがあるだろうか。

登記簿の中に潜む違和感

住所変更の時系列が合わない

登記簿を確認すると、兄名義の実家の土地が昨年、名義変更されていた。 しかも住所が、数年前に失踪したままの住所から移されていたのだ。 不思議なことに、その変更には本人確認書類が添付されていない。

同一筆跡の複数登記申請

さらに掘り下げると、他にも数件、同じ筆跡の書類が出てきた。 まるで『こち亀』の両さんが適当に書類を書いたような大雑把さで、筆跡が一致していた。 司法書士としての感覚が警鐘を鳴らす——これは明らかに、同一人物による偽造だ。

調査に乗り出すシンドウとサトウ

古い登記書類から浮かび上がる影

古い登記簿を見返すと、失踪後すぐに土地に関する動きがあった。 しかも、その手続を代行した司法書士は廃業しており、連絡も取れない。 過去の登録免許税の記録もなぜか欠落していた。

近隣住民が語るもうひとつの兄

依頼人と共に実家近くを訪れると、近所の老婦人が語った。 「たしかに似たような男が何年か前に戻ってきたよ。でも、あれは兄さんじゃないね」。 顔は似ているが、話し方も癖も違っていたという。

所有権移転の裏に潜む動機

借金と担保と偽装相続

土地はすでに別の第三者に売却されていた。 しかし売却契約書には「委任による登記申請」と記されていた。 つまり、偽の兄が名義人になりすましていた可能性が浮上した。

戸籍謄本の小さな違い

戸籍を改めて確認したサトウさんは、眉をひそめた。 「これ、住民票コードが旧姓のままになってますね。明らかに不自然です」 細かい違いが、まさに真実への道しるべとなった。

シンドウのうっかりが導いた突破口

名前の誤記が暴いた真犯人

「やれやれ、、、また打ち間違えちまった」とつぶやきながら、登記情報を検索していた。 だがその“誤記”が奇跡を呼んだ。偽名義人の名前が1文字だけ異なるバリエーションで登録されていたのだ。 検索のミスが、偽名義の登記情報を偶然にもあぶり出した。

サトウの冷静な一言

「つまり、兄になりすました人物が、土地を担保に借金をして逃げたわけですね」 彼女の淡々とした声に、依頼人は呆然としながらも頷いた。 「詐欺罪で告発できますね。被害届を出しておきましょう」と、冷静に処理を進める。

やれやれ事件の幕引き

依頼人が最後に語った真意

「正直、兄が生きていてくれたらって、ちょっと期待してました」 依頼人の目には、わずかに涙が浮かんでいた。 だが、彼女はまっすぐ前を向いていた。「でも、事実がわかったことには感謝してます」

司法書士にできることと限界

書類と登記簿、それが我々のフィールドだ。 だが、その裏にある感情や人の記憶にまで踏み込むことはできない。 「やれやれ、、、書類に人の心までは写らないよな」と、つぶやきながら事務所に戻った。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓