曇り空と一通の電話
午前十時、事務所の電話が鳴った。
重たい雲が空を覆っていた。コーヒーの香りも、サトウさんの冷たい目線には勝てない。「出ないんですか」と促され、受話器を取る。内容は、転出手続きで使った住民票コードに関する妙な相談だった。
古びた役所と奇妙な依頼
依頼主は、役所の元職員だった。
定年退職後に古文書整理を任されていたらしい。その過程で「記録上存在しない」住民票コードを見つけたという。書類には確かに押印され、実在したはずの人物の名がある。それが“記録上”存在しない?ふざけた話だ。
住民票コードの不一致
登記情報と住民記録が食い違っていた。
該当の土地には現在住んでいるはずの人物の記録が一切ない。登記簿上はA氏所有だが、住民票上ではその存在が確認できない。まるで『名探偵コナン』の黒の組織みたいに、名前も戸籍も消されたかのようだった。
サトウさんの冷たい指摘
「これ、手書きの書類だけに存在してますね」
彼女の指先が指したのは、昭和時代の分厚い記録台帳。手書きの文字で書かれた「13桁の住民票コード」が、一枚だけ浮いている。「どうせまた野球部の感覚で適当にやってるんでしょ」と言われた。反論できない自分が情けない。
十三桁に潜む意味
住民票コードはただの識別番号ではなかった。
十三桁、それは一種の暗号のようだった。サトウさんが古い行政資料から引っ張り出してきた説明書によれば、当時は内部コードに役所独自の“用途区分”が組み込まれていたらしい。つまり、このコードは「裏の目的」で使われていた。
かすれた転出記録
昭和58年、突然の転出扱い。
ただしその人物は、転出先での記録がない。まるで『キャッツアイ』のように、証拠だけを残して人間だけが消えている。「失踪ではなく、記録の抹消では?」という疑念が湧く。サトウさんの眉がわずかに動いた。
二重登録の罠
別人として、同一人物が存在していた。
それは、現在登記されているA氏と、過去に消された住民コードの所有者が同一人物であることを示していた。つまり、意図的に“二人目”として再登録された可能性がある。よくある詐欺手口だが、ここまで精巧なのは珍しい。
元職員が語る過去
「あの人は、住民コードの実験対象でした」
彼の口から語られたのは、自治体が独自に住民管理を行っていた時代の闇。コードを使って“存在を操作”する試みがなされていた。今ならコンプラ違反だが、当時は合法のグレーだった。A氏はその犠牲者であり、同時に加害者だった。
やれやれ、、、とため息をつきながら
この世には、記録されない真実がある。
昼食を買いに出た帰り、俺はコンビニの駐車場でうずくまっていた。十三桁の数字に振り回され、サトウさんに叱られ、記録と人の存在の間にある深い溝に気づいてしまったからだ。まったく、やれやれ、、、だ。
野球部時代の記憶が鍵になる
背番号13に込められた意味。
中学時代、補欠だった俺の背番号は13番だった。馬鹿にされた数字だが、それが今こうして謎解きの鍵になるとは。住民票コードの最後の桁、それが“偽装”か“本物”かを見分ける決定的な情報だったのだ。
偽名と隠された相続人
住民票が抹消された人物に、子どもがいた。
A氏の死後、その子どもが相続人として名乗り出たが、記録上存在しないため相続権が認められなかった。しかし、裏コードの存在が証明された今、彼は「戸籍外の実子」として認定され得る。司法書士の出番である。
暗号としての住民コード
数字は人を消しもすれば、蘇らせもする。
十三桁の裏コード。それは過去の影に埋もれた個人の存在証明であり、同時に役所の暗部でもあった。サザエさんのタラちゃんでさえ、住民票くらいは持っている。そう思うと、この事件はあまりにブラックジョークじみていた。
サトウさんのひと言で全てがつながる
「司法書士なんですから、最後までやってください」
そのひと言に背筋を伸ばされた。彼女が突きつけたのは、再申請の方法と証拠書類の照合図だった。完璧すぎる段取りに、俺はただ頷くしかない。もう慣れてるけど、サトウさんは本当に手強い。
真相は役所の地下室に
封印されたデータベースが見つかった。
元職員の案内で、古い端末が眠る地下室へ。そこにあったのは、昭和のデータを焼き付けた磁気テープ。住民票コードの“裏の使い方”が明示されたマニュアルも見つかった。それが決定的証拠になった。
司法書士としての最後の一押し
遺産分割協議書に名前を書かせた。
実子とされた青年は涙をこぼしながらサインした。「ありがとう」と言われたが、俺は何もしていない。全部サトウさんの手柄だ。でもそれでいい。これが俺の“役割”だ。
記録に刻まれた正しい名前
もうその名前は、誰にも消せない。
訂正された住民票が役所から送られてきたとき、俺はようやく深く息を吐いた。十三桁の謎は解けた。そしてその裏に眠っていた“家族の絆”も、ようやく表に出てきたのだ。