登場人物紹介
シンドウ:うっかりだが頼れる司法書士
地方都市で司法書士事務所を営む45歳。独身。元高校球児で肩だけはまだ壊れていないが、恋愛方面は壊滅状態。愚痴とネガティブ思考が口癖で、なぜか女性にモテない。だが仕事には意外と真面目で、土壇場での決断力には定評がある。
スーツの肩にはいつも書類の端が刺さっている。猫背。最近は朝の味噌汁が唯一の癒しである。
「やれやれ、、、また変な話が舞い込んできたな」とつぶやきながら、今日も事務所のドアを開ける。
サトウ:冷静沈着な事務員、鋭い洞察力の持ち主
29歳女性。事務所の切り盛りはこの人がいなければ回らない。愛想はないが仕事は完璧。たまに見せるツッコミは鋭く、シンドウも頭が上がらない。
趣味はコンビニスイーツの成分表示チェック。地味な服装だが、隠れた名推理をする姿は、まるでキャッツ・アイの瞳のよう。
「先生、それ、間違えて昨日の郵便物ですよ」と今日も容赦なく言い放つ。
第一章:朝イチの電話と重たい空気
いつもの愚痴と、変わった来電
午前8時52分。コーヒーの粉を切らしていたシンドウはすでに不機嫌だった。サトウが黙ってインスタントを差し出す頃、一本の電話が鳴る。
「フジタと申します。委任状を出したいのですが……今日は行けませんので、机の上に資料を置いておきます」 それだけ言って一方的に切れた。
「やれやれ、、、また変わったのが来たな」 シンドウの顔には、サザエさんの波平がカツオに小言を言うときのような深いため息が刻まれた。
姿を見せない依頼人フジタの謎
翌朝、事務所のポストに封筒が届いていた。「フジタ」とだけ書かれた白封筒。中には空欄だらけの委任状と、不動産のコピー。
「この住所、見覚えあります。登記が数回変わってますね」 サトウが淡々と調査を始める。
何かがおかしい。委任する本人がいない。委任状は白紙。依頼というより、”痕跡”に近い。
第二章:空白の委任状と不自然な封筒
「内容証明を出したい」とだけ書かれたメモ
封筒の奥に、小さなメモ用紙が入っていた。達筆とも読めないクセのある字で「内容証明を出したい」とだけ記されていた。
差出人もなし。送り先もなし。ただその一文のみ。司法書士歴20年、こんな依頼は初めてだった。
「やれやれ、、、せめて本文くらいは書いてほしいよな」 思わず口からこぼれた本音に、サトウの視線が突き刺さる。
サトウの推理と過去の類似事件
「あの住所、過去に同じような登記の相談が来てます」 サトウはデータベースをさっと開き、2年前の案件を表示した。
「たしか、所有者不明で登記が止まってた不動産ですね」 記憶をたどるシンドウ。頭の片隅に、かすかに嫌な予感が広がっていた。
まるで探偵漫画でいうところの「第二の被害者」が出そうな、あの空気だ。
第三章:謎の会社登記簿と空き家の一致
所有者の名前が一致しない不動産
登記簿を確認すると、所有者の名前は「藤田次郎」。しかし、先日電話をかけてきたのは「フジタタロウ」。
サトウは無言で両者の筆跡を比較していた。違う人物、だが目的は同じ。不動産に関わっている。
「この建物、今は空き家で電気も止まってるみたいです」 調査は、怪盗ルパン三世が残す名刺のように、意味深な証拠だけを置いていった。
委任者フジタは実在しない?
「住民票にも、戸籍にも、いないんです。フジタタロウという人物」 サトウが言った瞬間、シンドウの背筋が冷えた。
依頼人が幽霊、なんて笑い話にもならない。これは意図的な“なりすまし”か。
ここからが本番だ。サザエさんのEDで全力疾走するカツオのように、調査は加速する。
第四章:決定的証拠はUSBメモリ
登記書類の隙間に挟まれていた小さな鍵
何度も見返していた書類の中から、ふとした拍子に落ちた小さなUSBメモリ。
「サトウさん、これ……」 中には映像データが入っていた。古びた部屋、椅子に座った男の顔、それは“フジタ”を名乗った男だった。
「詐欺の証拠、これかもしれません」 彼の声で、自白が記録されていた。
映っていたのはフジタの「自白動画」
「この不動産を売るつもりだった。だが登記を取れず、司法書士に頼るしかなかった」 そう語る姿は、罪の重さよりも焦りが勝っていた。
「自首はしない。ただ、証拠は残す」 自白の意図は不明だったが、映像の存在で事件の輪郭は明確になった。
やれやれ、、、幽霊がUSBで名乗り出るとは、時代も変わったものだ。
第五章:警察と連携、そして逮捕劇
偽名で登記を利用した詐欺事件の全容
警察への通報後、事態は急展開を迎える。フジタは他県で似たような手口を繰り返していた詐欺師だった。
映像と筆跡、封筒の指紋が決定打となり、逮捕に至る。司法書士事務所が起点となった事件解決だった。
「ニュース出ますかね? 登記事務所が事件を解決、とか」 サトウの淡々とした一言に、シンドウは「それはやめてくれ」と苦笑した。
登記は無事完了、でもサトウは一言も褒めず
フジタが残した登記は最終的に抹消され、法務局の処理は粛々と終わった。
事務所に静けさが戻る。事件が去っても、登記は待ってくれない。
「先生、今度こそ書類の山、片付けてくださいね」 淡々と片付けるサトウに、シンドウは「はいはい」とだけ答えた。
最終章:静かな日常と、それぞれの後日談
やれやれ、、、結局、地味な手続きが一番難しい
裁判でも、捜査でもない。地味な登記手続きの中で人の裏側が見える。だからこそ、この仕事は面白い。
帰り道、シンドウはサザエさんのエンディングを口ずさんだ。走ってるのはカツオじゃなく、自分かもしれない。
やれやれ、、、それでも明日もまた、登記はやってくる。