登記簿の中の違和感
秋の風が吹き込む午後、ひとつの登記簿謄本が机の上に置かれた。 表面上は何の変哲もない、普通の不動産登記の写し。だがページをめくった瞬間、俺の背中に冷たいものが走った。 違和感。それは、文字には現れない、どこか歪んだ物語の始まりの予感だった。
古びた権利証
依頼人が持ってきたのは、昭和の香りがする黄色く変色した権利証だった。 どう見ても当時の様式ではない部分が、そこに紛れていたのだ。日付と筆跡が微妙に浮いている。 まるで、後から誰かが「物語」を書き換えたような不自然さだった。
サトウさんの鋭い指摘
「この印鑑、枠が違いますね」 彼女は何気なくそう言って、虫眼鏡で押印を覗き込んだ。確かに、他の印影と微妙にズレている。 俺の背筋に電気が走る。うっかり見逃すところだったが、サトウさんの観察眼は、まるでルパンの相棒・次元のように精密だった。
名義変更をめぐる謎
話は依頼人の「急ぎで相続登記をしたい」という依頼から始まった。 だがその相続人リストの中に、聞き覚えのない人物が含まれていた。 まるで最初から“誰か”が意図的に名義を書き換える準備をしていたようだった。
書類の日付が語るもの
申請日と日付が一致しない戸籍があった。それも1通ではない。 俺がその事実に気づいたのは、ふとした瞬間だった。コンビニで温められた弁当のように、違和感がじわじわ広がっていく。 「やれやれ、、、またこんなややこしい案件か」と、つい独り言を漏らしてしまった。
謄本と実印のズレ
実印が本人確認資料の印影と合致しない。それどころか、字体まで違う。 まるでサザエさんのエンディングで波平の髪が2本になっていた、あの一瞬の違和感に似ている。 「これ、誰かが登記を操作してる可能性がありますよ」とサトウさんが静かに言った。
依頼人の沈黙
問いただすと、依頼人の顔色が変わった。「いや……それは、親戚に任せてて……」 曖昧な返事。明らかに何かを隠している。俺は机の下でこっそりICレコーダーを起動させた。 こういうとき、コナンの蝶ネクタイが欲しくなる。いや、俺が小五郎か。
遺産分割協議の闇
提出された協議書には、故人の弟の名前があったが、現在の住民票にはその弟の名前はなかった。 まるで幽霊のような存在。生きているのか、死んでいるのか、存在していたのか。 確かめる術はひとつ。俺は職権で戸籍の附票を取り寄せた。
家族の証言が食い違う
弟はもう十年前に行方不明になっていた。しかし、協議書にはきちんと署名と印鑑が押されていた。 どう考えても不自然だ。「誰かが、弟を“再現”したのかもしれませんね」とサトウさん。 そう、誰かが登記を完成させるために、存在しない人間を“演出”したのだ。
真実を追う司法書士
登記簿の履歴をたどっていくと、過去に同様の手口で変更された別物件が浮かび上がった。 件の依頼人と、同じ住所で申請された記録。完全にクロだ。 やれやれ、、、詐欺案件に関わると胃が痛くなる。
調査の手がかりは登記情報
法務局の端末で過去の登記情報を検索する。検索結果の中に、同じ実印の登録情報が3件あった。 いずれも今回の依頼人と関係のある地番。 つまり、これは計画的な偽装登記。手口は巧妙だが、見抜けないほどではない。
古い台帳に残された名
法務局の地番台帳には、手書きで追記された旧所有者の記録が残っていた。 そこにあった名前は、協議書に書かれていた人物とは異なる。 俺は確信した。この事件は“遺産”ではなく、“遺恨”によって動かされていたのだ。
動き出す影
俺が法務局を出た瞬間、見知らぬ男がこちらを見ていた。 携帯を手にしながら、何かを確認している。直感的に、あれが“共犯者”だと分かった。 だがこちらも油断しない。背広の内ポケットには、録音データとサトウさんの作った時系列表が入っている。
不動産屋の証言
過去にその物件を仲介した不動産業者を訪ねた。「あー、その人ね……実はね」 彼の話から、依頼人が過去にも似たような相続を装って登記をした形跡が見えてきた。 俺たちは完全にパズルのピースを手に入れた。
見えない共謀者の存在
証拠が集まるにつれ、背後に司法書士とは別の存在が浮かび上がった。 行政書士、そして登記識別情報の再発行申請を代行した別の代理人。 そのラインを辿ることで、ネットワークが次第に明るみに出てくる。
登記官のひとこと
「あれ、妙だと思ったんですよ。押印が逆さまで」 登記官の一言が決定的だった。やはり、申請書に不自然な点があった。 俺はその瞬間、すべての点と点が線でつながるのを感じた。
手続きに隠された罠
印鑑証明の交付日、戸籍の附票の取得日、そして登記申請日。 この三点を時系列で並べたとき、すべての歯車が逆に回っていた。 犯人は、登記制度の“盲点”を突いたのだ。
法務局の奥で
俺とサトウさんは、担当官に事情を説明し、申請の取消と職権更正の手続きに入った。 法務局の会議室で、依頼人はついに観念し、全容を自供した。 「もう逃げられないよ。サトウさんの目を甘く見たな」と俺は心の中で呟いた。
サトウさんの推理
「結局、動機は金ですね。でも今回はずいぶん回りくどかった」 サトウさんは冷静にそう言いながら、コーヒーを啜っていた。 俺はその隣で、ホッとした気持ちと、妙な敗北感を噛みしめていた。
伏線はすでに揃っていた
思えば最初の印鑑のズレ、あれがすべての始まりだった。 「探偵漫画なら、最初の5ページで回収される伏線ですよ」と彼女は笑った。 俺はというと、まだ台帳の余白に事件の余韻を感じていた。
やれやれ、、、またお見通しか
「やれやれ、、、またサトウさんのおかげか」 俺がそう呟くと、サトウさんは「当然でしょ」とだけ答えた。 その横顔に、俺は少しだけ安心した。やっぱりこの事務所、名探偵がいる。
決定的な証拠
最終的な決め手は、登録免許税の納付情報だった。 改ざんされた協議書の収入印紙が未使用だったことが判明したのだ。 完全にアウト。登記は抹消され、事件は幕を下ろした。
登記識別情報の再確認
通知書の番号が過去の発行記録と食い違っていた。 サトウさんの照合がなければ、俺は気づかなかっただろう。 司法書士とは、こういう“細かいところ”で真価を問われる職業だ。
写しの中にあった真実
最初に感じた違和感は、やはり正しかった。 写しの中には、書かれなかった“嘘”がにじんでいたのだ。 それを見抜く目と、記憶に残す力が、俺たちの武器だ。
嘘の代償
依頼人には偽造登記による罰則が下された。 遺産を騙し取ろうとした代償は、思った以上に重かったようだ。 だが、それよりも重いのは、“信頼”という名の登記が失われたことだろう。
名義人の正体
虚偽の協議書に書かれた名義人は、実在しない人物だった。 その名前が、依頼人の小説の主人公だったことは皮肉だった。 登記簿は、空想では動かせないのだ。
誰が何のために仕組んだのか
すべては金のため。だが、その裏には古い家族の確執も見え隠れしていた。 争族という言葉が、これほど現実的に響いたことはなかった。 “紙”の裏には、いつも“血”が流れている。
登記簿が語ったもの
今回の事件を通じて、俺はまたひとつ“読む力”を身につけた気がする。 登記簿はただの記録じゃない。人間のドラマが刻まれている。 嘘を刻んだ登記簿。それは、真実を知るための鏡でもあった。
正しい所有者へ
登記は修正され、正しい所有者のもとへ戻った。 法務局の印は、静かに新たなページを閉じた。 そして、また新しい“物語”が、そこから始まっていく。
静かに閉じる一件
夕暮れの事務所。俺はコーヒーを淹れ、窓の外を見る。 サトウさんは、もう次の登記準備に入っていた。 「やれやれ、、、また事件が来るかもしれんな」俺はそうつぶやいた。