誓いの果てに現れた債務者

誓いの果てに現れた債務者

開始の鐘は鳴らされた

婚約者からの突然の依頼

朝一番、見知らぬ若い女性が事務所のドアを開けた。白いレースのスカートに清楚な化粧。けれど、その目だけはやたらと覚めていた。 「婚約者が破産するかもしれないんです」――開口一番、そう言った彼女に、俺は湯呑みを落としかけた。 結婚と破産。この組み合わせはまるで、サザエさんでいきなり波平が探偵になるような違和感だ。

破産とブライダルのあいだで

登記簿に浮かぶ妙な違和感

依頼人の婚約者は、建築業を経営していたというが、法人名義の不動産がなぜか個人の名義に切り替えられていた。 直感が騒いだ。これは単なる資産隠しじゃない。破産手続の前に、何か計画的な意図があった。 こういう時、サトウさんは一言も発せず、PCに向かってただカタカタとキーボードを叩き続ける。

破産申立書に潜む虚構

債権者一覧を見て、俺は驚いた。恋人であるはずの彼女の名前が、その中にあったのだ。しかも、無利息で数百万円。 「これって……融資ですかね?」とサトウさんが言う。まるでコナンくんばりの冷静さだ。 俺は小さく頷きながら、やれやれ、、、恋も金も帳簿次第か、と独りごちた。

サトウさんの冷たい推察

名義の一致が示す奇妙な符号

登記簿を照らし合わせていくうちに、あることに気づいた。現在の居住地と、元婚約者の実家の名義が一致している。 それは偶然ではなかった。元婚約者の実家が連帯保証人になっていたのだ。 「保証人の住所って、たまに伏線になりますよね」とサトウさん。彼女、何かアニメの見過ぎじゃないか?

ウェディング業者と担保設定

調べを進めると、婚約者が契約していたウェディング業者の名義が、担保設定された土地の登記簿にも登場していた。 その業者は実は、元婚約者の兄が経営していた会社だった。つまり、金は外に流れていない。 これは完全に身内で固めた自作自演の破産シナリオだ。

愛の証は誰のものか

指輪の領収書と預金残高

彼女が提示した婚約指輪の領収書には、支払い者として婚約者の名が記されていた。 だが預金口座を確認すると、同日に多額の入金があった。しかも、それは彼女名義の口座からの振込だった。 つまり、プレゼントではなく「自分で買わせた」指輪だったのだ。

供述調書から抜けた一行

家庭裁判所に保管されていた供述調書には、元婚約者が「結婚は形式上のもの」と語った一文があった。 そして、その下にかすかに消しゴムで消された跡が。復元すると「債務整理の回避のため」という文字が浮かび上がった。 あまりに手が込んでいる。ルパン三世でもここまで用意周到じゃない。

過去に隠された破産の履歴

旧姓と過去の住民票の一致

彼女の旧姓で過去の住民票を追っていくと、驚きの事実が出てきた。十年前、彼女自身も自己破産していたのだ。 それを申告せず、現在の婚約者と出会い、資産を移すよう持ちかけていた可能性が浮かぶ。 破産経験者が破産者を操る。皮肉というより、もはやサスペンス劇場だ。

親族にいた別の破産者

さらに調査すると、彼女の親族にも過去に破産した者が複数いた。 その全員が特定の司法書士事務所を利用していたことも判明。どうやら一連のネットワークがあるようだ。 「ネットワーク型の破産ビジネスですか」とサトウさん。こわい笑みを浮かべている。

裁判所から届いた真実

裁判記録の中にあった告白

最終的に、元婚約者が債権者に宛てたメールが証拠提出された。それはすでに婚約破棄後に送られたものだった。 そこには「すべては清算のための演技だった。愛など最初からなかった」と書かれていた。 読んだ瞬間、俺は「やれやれ、、、」としか言葉が出なかった。

シンドウの逆転の一手

婚約のタイミングと支払履歴

最終的に俺は、婚約のタイミングと彼女の振込履歴を照合し、資産の移転と債権放棄が意図的だった証拠を揃えた。 破産手続は一時停止、そして彼女への民事訴訟が進められることとなった。 「愛が破産した日」という週刊誌の見出しに、俺は苦笑いを浮かべた。

やれやれ、、、幸せの裏にはいつも帳簿がある

ブーケの花は誰のために咲いたのか

事件が終わったあと、サトウさんがつぶやいた。「これ、ブーケ・トスで幸せになれる人いないですね」。 確かに、誰も幸せにならなかった事件だった。けれど、一つだけ明らかになったことがある。 ――愛は、帳簿には残らないが、帳簿で暴かれるものなのかもしれない。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓