登記簿が語らない真実

登記簿が語らない真実

登記簿が語らない真実

忘れられた一軒家の相談

午後のコーヒーを啜ろうとしたところに、一本の電話が鳴った。
「以前、父の名義で買った家があるんですけど、処分に困っていて…」
語尾を濁す若い女性の声には、なにか隠している響きがあった。

怪しい依頼人の口ぶり

依頼人は現れた。年のころは三十代半ば、スーツは高級そうだが足元の靴が妙に汚れている。
「父が亡くなってから、誰も住んでいない家なんです」
そう言う彼女の目は、登記簿のページを一度も見ようとしなかった。

売買契約書に残された違和感

書類一式を見せてもらうと、契約書には旧所有者のサインがない。
「これ、本当に売買されたんですか?」
サトウさんがさりげなく問いかけると、依頼人は顔を引きつらせた。

サトウさんの冷静な指摘

「これは遺産分割協議のようでいて、実質は無断売却です」
ぴしゃりと指摘するサトウさんの声に、事務所内の空気が変わる。
私はその冷たくも的確な言葉に、なぜかホッとした。

消えた旧所有者の足跡

旧所有者である父親は、死亡届すら出されていなかった。
近所の法務局でも登記の更新はされておらず、10年以上の空白がある。
不自然な沈黙は、どこかで無理をして隠された過去を感じさせた。

閉ざされた登記簿の記録

登記簿には最終の名義人として父親の名前が残されたままだった。
だが、現地調査を行うとそこには別の人物が住んでいる。
しかも、その人物は「その家は昔から自分のもの」と言い張っていた。

名義変更をめぐる奇妙な空白

法務局にも、地元の役所にも、誰もその住人の存在を把握していない。
「いわば、書かれざる所有者ってことか」
私は自分で呟いた言葉にゾクリとした。

シンドウのうっかりが導いた糸口

書類をファックスで送ろうとして間違えて別の司法書士事務所に送ってしまった。
「これ、昔ウチでも扱った家だな」とその事務所から連絡があったのだ。
まさかの凡ミスが、有力な手がかりを引き寄せたのだった。

やれやれ、、、と思いながらの現地調査

「どうしてこうなるかな、、、」と愚痴りつつ、私は現地へ向かった。
塀の崩れた古家の前で、どこかで見たような男が出迎えた。
「名探偵コナンの阿笠博士を細くしたような男だな」と思った。

サザエさん一家では起こりえない家族の闇

話を聞くと、依頼人の姉にあたる女性が、父の死後に家を勝手に貸し出していたという。
賃貸契約も口約束、家賃も現金手渡しという昭和の闇取引だ。
「サザエさんの磯野家なら、波平が激怒して終わる話なんだけどな…」と、私はため息をついた。

登記簿の裏に潜む恋と欲望

どうやら貸し出し相手は、かつて姉が想いを寄せていた男だったらしい。
その想いは、登記にも書けず、法的にも認められず、ただ時間に風化していった。
それでも彼女は家を「渡したくなかった」のだ。

サトウさんの推理と決定打

「これ、民法上も完全にアウトですね」
サトウさんは法律書を開きながら淡々と結論を告げる。
その後、依頼人の表情がサッと変わったのを私は見逃さなかった。

鍵を握る第三者の登場

後日、住んでいた男が「自分が正規の相続人だ」と主張しに来た。
なんと、父親の隠し子で、戸籍には載っていなかったというのだ。
まさか、登記簿が語れない“血”の真実まであるとは思わなかった。

すべては記載できないという現実

最終的には遺産分割調停となり、司法書士としての出番は一歩引く形となった。
登記簿には、正確な名義と日付が記される。だが、そこに至るまでの“想い”は、どこにも記録されない。
法の下でこそ公正を貫くべきだが、心の揺らぎはそれを越えてしまうことがある。

そして日常が戻ってくる司法書士事務所

「また変な案件が舞い込んできそうな気がします」
サトウさんの冷たい予言に、私は肩を落とす。
やれやれ、、、次はもっとシンプルな登記がいいんだけどな。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓