眠れる法人の牙
依頼は一通のFAXから始まった
朝の9時半、事務所に届いたFAXは、まるで昭和の刑事ドラマの出だしみたいだった。 手書きで雑に書かれた依頼文。差出人の名前はないが、内容は「会社を復活させたい」という短い一文。 一見して怪しい。サトウさんがFAX用紙を手に取りながら、鼻で笑った。
休眠会社の謄本に浮かぶ異変
その会社名を法務局で調べてみると、確かに「休眠中」の印がついていた。 だが、役員変更の記録が5年前で止まっているはずなのに、なぜか去年の日付で「本店移転」の痕跡がある。 「ん?これ、、、」と、思わず声が漏れる。なんだか胡散臭い。
サトウさんの冷静な分析
「代表者変更されてないのに本店だけ動いてるのは不自然ですね」 サトウさんは、紅茶を一口すすりながら淡々と言った。 その目はまるで、ルパン三世の峰不二子が金庫の奥を見透かすときのように鋭い。
法務局に残された旧登記
久しぶりに法務局へ足を運ぶ。窓口の職員が何気なく口にした一言が引っかかった。 「この会社、代表者の本人確認情報、3年前に提出されてますよ」 え?その頃にはすでに休眠状態だったはずだ。ということは、、、
株主リストの影に潜むもの
旧登記簿から株主リストを洗い出してみると、ある名前が浮かび上がる。 「田島敬三」――確か、5年前に代表を降りたはずの男だ。 だが、謄本によると、未だに株の50%を保有しているように見える記述があった。
消えた代表取締役の行方
現代表の名前は「山口哲也」。だが、住民票の写しは空白。戸籍の附票も途切れている。 「登記されてるけど、実在しないんじゃないですか?」とサトウさんが言った。 本当にそうだとすれば、これは架空名義を使った乗っ取りの可能性がある。
暴かれる再生のトリック
少し前に出回った「会社復活マニュアル」の存在を思い出す。 特定の司法書士が関わって、不正に登記復活をしていたという噂。 その中に、今回の件と同じような「休眠からのなりすまし」が記録されていた。
株式譲渡契約のねじれた真実
さらに深堀りすると、株式譲渡契約書が発見された。だが、日付は4年前。 登記上の移転よりも前だ。しかも、署名が筆跡鑑定で偽造の可能性あり。 この会社は、第三者により「中身だけすり替えられていた」のだ。
一人の司法書士の過去との再会
この手口、どこかで見たことがある。――そう、十年前。俺が補助者時代に仕えていた事務所の元代表。 すでに廃業しているが、彼の名前が、復活マニュアルの末尾に印刷されていた。 「やれやれ、、、過去のツケってやつか」と、無意識につぶやいていた。
登記申請に仕組まれた罠
提出された登記書類は、精緻に作られていた。だが、サトウさんは見逃さなかった。 添付書類のうち、印鑑証明書の日付が登記申請日と矛盾していた。 「この証明書、申請後に取得されてますよ。ありえませんね」――まさに決定的証拠だった。
サトウの推理と逆転の印鑑証明
サトウさんが独自に取得したもう一通の印鑑証明には、別の代表印が押されていた。 しかもそれは、廃業した元司法書士のもので、すでに抹消されているべきもの。 「つまり、この登記は虚偽申請の上に成り立ってる」と彼女は静かに言った。
全ては閉鎖された会社から始まった
関係者に確認したところ、田島敬三は3年前に死亡していた。 休眠会社の名義を使って資金洗浄をしていたのは、別人だった。 すべての痕跡は、閉鎖された登記簿に隠れていた。
法人格の仮面を脱いだとき
最終的に、虚偽登記の疑いで刑事告発へ。捜査当局が動いた。 依頼者を装ったFAXの主は、休眠会社を転売して荒稼ぎしていた闇ブローカー。 ようやくピースがすべてはまった瞬間だった。
誰が会社を生き返らせたのか
表面上の復活劇は巧妙だったが、司法書士としての目は誤魔化せない。 形式を整えても、中身が伴わなければ、登記は紙の城。 俺は静かに、関係書類をシュレッダーにかけた。
眠れる牙が最後に噛みついた
「で、今回の報酬はどうなってるんです?」とサトウさん。 「え?あ、そういえば、、、」財布の中に小銭しかないことを思い出す。 やれやれ、、、司法書士って、損な役回りばかりだ。