封筒に潜む真実

封筒に潜む真実

封筒に潜む真実

朝の雑務と封筒の山

司法書士という仕事は、地味で細かくて、けっしてサザエさんのように陽気じゃない。 朝のデスクに積まれた封筒の山を前に、俺はすでに胃が痛い。 どこかで聞いたようなセリフを吐くとしたら「また波平の小言が聞こえてきそうだ」とでも言っておこうか。

印紙が剥がれた契約書

そのうちの一通、開封された封筒から出てきたのは契約書だった。 だが、そこにあるべきはずの印紙が、まるで誰かに盗まれたかのように跡形もない。 貼り間違いか?いや、それにしては痕跡すらないのが奇妙だった。

サトウさんの冷静な指摘

「これ、貼った痕がありませんね」 サトウさんは封筒の内側を透かすようにして言った。まるでキャッツアイの瞳のような鋭さだ。 俺が気づかぬ点を、当然のように見抜いていくその姿に、また少しだけ自尊心が削れる。

印紙税法との静かな攻防

印紙の有無は税務署との戦争に等しい。たった一枚、されど一枚。 貼られていなければ、過怠税が容赦なくやってくる。 まるで少年探偵団の間違い探しのようなものだが、こちらは命がけ、、、は言い過ぎか。

クライアントの小さな嘘

契約書を持ち込んだのは、地元の建築業者だった。 「貼りましたよ。ちゃんと」そう言い張る社長の顔が、微妙に引きつっていた。 俺の中のルパンが呟いた。「これは、、、くさいぜ」

契約日と印紙の日付の矛盾

印紙自体は確かにあった。ただし、別の契約書に貼られていた。 しかも日付が一日ずれている。まるでアルセーヌルパンの置き土産のような痕跡だった。 意図的か?それとも単なる凡ミスか?その判断がつかないから困るのだ。

過去の帳簿に記された手書き文字

事務所の裏棚から、業者が提出していた古い控えを引っ張り出す。 手書きで書かれた「印紙貼付済」の文字。しかし押印はない。 やれやれ、、、この仕事、やっぱり探偵と変わらないんじゃないか。

名義人変更の裏に潜む事情

帳簿をたどるうち、契約書の名義が途中で変更されていることに気づいた。 だが、変更登記は出されていない。裏で何かが動いていた証拠だ。 俺の背中に汗が伝う。司法書士にとって、これは地雷の匂いがする。

行方不明の前任司法書士

さらに調べを進めると、この契約の前任担当が半年前に廃業していたことが判明した。 突然の廃業、連絡のつかない連絡先。何かがおかしい。 「こりゃ、また面倒なのを拾っちまったな」と、元野球部のクセでバットを握るようにペンを強く握り直す。

サザエさんと契約社会の皮肉

印紙ひとつで右往左往する我々の姿は、どこか滑稽だ。 波平のように頭を抱え、カツオのように逃げ回り、マスオのようにおろおろする。 これが現代の契約社会の現実なのかもしれない。

元野球部の推理と走塁の記憶

ある瞬間、ふと中学時代の野球部の記憶が蘇る。 盗塁の瞬間、キャッチャーのわずかな癖を見抜いたあの感覚。 まさに今、同じような違和感が俺の脳裏に走った。

やれやれと呟きながらの逆転劇

再度封筒を確認すると、内側の糊跡が明らかに二重になっていた。 つまり、一度貼って剥がした痕跡。決定的証拠だった。 「やれやれ、、、また野球部の反射神経が役に立ったよ」

貼ったのは誰かを超えた動機

印紙を剥がしたのは、業者の経理担当だった。 だが動機は単なる経費削減などではなく、前任司法書士の不正隠蔽が目的だった。 この一件、氷山の一角でしかないかもしれない。

結末とサトウさんのひとこと

「結局、印紙を貼ったのは誰だったんですか?」とサトウさん。 俺は肩をすくめる。「貼ったのは経理、剥がしたのも経理。でも犯人はその背後の体制さ」 サトウさんは一言、「そこまでわかっても、顔がにやけてますね」と呟いた。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓