打ち間違えた真実

打ち間違えた真実

打ち間違えた真実

それは、ひとつの「1」が「7」に変わったことから始まった。
ただの入力ミスかと思われたそのズレが、思いもよらぬ過去の扉を開いてしまったのだ。
まさか、そんな些細なことが事件に繋がるなんて、誰が想像しただろう。

依頼人は無口な女性だった

その日、事務所に現れたのは地味なスーツに身を包んだ四十代の女性だった。
離婚と財産分与に関する相談だったが、口数が少なく、書類もどこか曖昧だった。
サトウさんは一目で「何か隠してますね」と言ったが、俺は疲れていて聞き流した。

破れた申請書と一桁の謎

提出された登記申請書は、どこか不自然に一部が破れていた。
再発行された書類には「土地番号175」とあったが、添付された図面には「土地番号115」と読める記載が。
こんな入力ミス、よくあることだと思っていたが、どうも腑に落ちない。

サトウさんの冷たい推理

「これは意図的です」と、サトウさんは書類を机に叩きつけた。
「間違えるようで間違えない。数字が似てるようで、キーボード上の位置が遠い」
俺がうーんと唸ってる間に、彼女はすでに真相に近づいていたらしい。

やれやれと言いながらも現地へ

「やれやれ、、、本当に行くのかよ」
ぼやきながらも、俺は現地へ足を運ぶことにした。
車中で聞いたサトウさんの説明によれば、所有者情報が不自然に切り替わっているとのことだった。

古びたアパートに残された手がかり

現地にあったのは、まるでサザエさんの波平が管理していそうな古びた木造アパート。
その一室のポストに、旧所有者の名前が貼られたままだった。
登記記録では既に別人に移っているはずなのに、だ。

登記記録の中の矛盾

法務局で取得した履歴を確認すると、確かに「175番地」に名義変更されていた。
だが、その土地には建物が存在しない。どう考えても、現地の建物が立っているのは「115番地」だった。
つまり、まったくの他人に「間違って」不動産が移っている。

元依頼人が残したメモの意味

事務所に戻ると、依頼人から「やっぱりこの件はキャンセルで」と連絡があった。
不自然に思って書類を見直すと、裏に「ごめんなさい、私にはできません」と走り書きのメモ。
そこに添えられた一行の住所は「115」ではなく「175」だった。

電子申請ログに浮かぶ別人の名前

サトウさんが電子申請のログを調べていた。
その結果、申請者は依頼人ではなく「第三者の司法書士」による代理申請だったことが判明した。
しかもその人物、過去に数件の名義変更トラブルで注意を受けている。

入力ミスに見せかけた意図的な罠

サトウさんが言った。「これは“わざと”です。全部わざと」
入力ミスはカモフラージュ。実際には所有権を奪うための巧妙なトリックだった。
依頼人は加害者に脅されて協力していた可能性が高い。

消されたはずのファイル復元作戦

うちの事務所に昔使っていた古いPCがあり、そこに一度送られたデータの残骸が残っていた。
サトウさんが手際よく復元すると、出てきたのは加工前の登記識別情報。
これが決定的な証拠となる。

サトウさんが見抜いた数字の仕掛け

「この人、数字をずらしてるだけじゃなく、元データまで改ざんしてる」
解析したデータから、別件でも同様の入力ミスが頻発していることがわかった。
司法書士の名を語って土地を盗む――まるで平成のルパンだ。

犯行の動機は遺産相続だった

奪われた不動産は、実は亡き夫の遺産だった。
相続手続きをしないまま放置されていたことで、法の隙を突かれた。
依頼人は、その事実を知っていたが、脅迫により声を上げられなかった。

真犯人はすぐそばにいた

なんと、偽装申請を行っていた司法書士は、県内の懇親会で何度か顔を合わせた男だった。
にこにこ笑って近寄ってきていたが、俺が証拠を突き付けると目の色が変わった。
その後、法務局から懲戒請求が出されたと連絡があった。

データが証明する揺るぎない証拠

結局、裁判になったが、証拠となったのは入力ログと復元されたファイル。
「ただの入力ミスです」という言い訳は通らなかった。
そして依頼人は、無事に土地を取り戻すことができた。

そして誰も登記を信じなくなった

「シンドウさん、また登記の信頼が下がりましたね」
サトウさんの言葉に、俺は深くため息をついた。
それでも俺たちは、今日もひとつずつ真実を積み上げていくしかない。

一つの間違いが暴いた真実

誤って打ち込まれた一桁の数字が暴いたのは、組織的な犯行だった。
ミスの中にこそ、真実が隠れているのかもしれない。
やれやれ、、、俺には荷が重すぎる。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓