報酬明細より気持ちの明細がほしい日もある

報酬明細より気持ちの明細がほしい日もある

給料は振り込まれても気持ちは宙ぶらりん

今月もいつも通り、通帳に数字が並んだ。生活には困らない額だし、誰かに文句を言われる筋合いもない。それなのに、なぜか胸の奥がスッキリしない。むしろ、どこかモヤモヤしてしまう。毎月届く報酬明細には、「何を頑張ったか」や「誰かに感謝されたか」は載っていない。数字は嘘をつかないけれど、心の疲労度までは測れない。それが、司法書士として独立してからずっと抱えている違和感の正体かもしれない。

報酬明細を見て思わずため息が出る瞬間

ふと明細を開いたとき、金額を見て「うん」とうなずくけど、なぜかその後に大きなため息が出る。昔の自分だったら、この金額に喜んだと思う。でも今は違う。たとえば、登記手続きで何度も役所に足を運び、電話対応で理不尽に怒鳴られ、事務所では一人きりで処理に追われる日々。その努力の一つ一つに「よく頑張ったね」と言ってくれる誰かがいたら、報酬明細の数字ももっと違った意味を持つのかもしれない。

数字は正直だけどそれだけじゃ割り切れない

売上は増えている。昨年より事務所の収益も悪くない。それでも心の中は、どこか空っぽだ。数字は裏切らないけれど、数字だけで満たされないのが人間だと思う。頑張っても誰からも声をかけられない。間違っても「どうせ司法書士なんだからそれくらいできて当たり前」と言われる。誰も自分の努力に「点数」をつけてくれない社会の中で、気持ちの明細を勝手に書き足したくなるのは、自分だけだろうか。

「ありがとう」の一言に勝るインセンティブはない

一番心に残るのは、やっぱり依頼人からの「ありがとう」だ。報酬の高い案件よりも、心から感謝された一言の方が、何倍もやりがいになる。昔、相続手続きで不安そうにしていた高齢の女性に、「先生にお願いして本当によかった」と言われた瞬間は今でも鮮明に覚えている。あの一言で、それまでの疲れがふっと消えた。そんな「気持ちの明細」は、何度も見返したくなる心の宝物だ。

感情の見返りがない日々に疲れていく

気づけば、誰にも頼られないまま一日が終わっていることもある。たとえ仕事が順調でも、人間関係の温度が低いと、満たされなさだけが積もっていく。静まり返った事務所にいると、「この仕事ってなんだろう」と思うことがある。そんな自問自答を何度繰り返しても、答えは見つからない。ただ、「ねぎらい」や「共感」といった感情の見返りが、いつからか明細に載らなくなったように感じる。

頑張っても誰も見ていないと感じる夜

夜、事務所に一人で残って書類の山と格闘していると、ふと虚しさがこみ上げる。事務員も帰宅し、時計の針が22時を回る頃。自分が今日どれだけのことをこなしたか、誰か知ってるのか?とふと思う。元野球部のときは、誰かが「ナイスプレー」と声をかけてくれた。今は誰にも見られず、誰にも褒められないプレーを、ただ黙々と繰り返している。

「やって当たり前」の積み重ねが心を削る

司法書士という職業は、ミスが許されない世界だ。「やって当然」「できて当たり前」と思われる。そのプレッシャーに慣れてはいるけれど、それが心をすり減らしているのも事実だ。たとえば、不動産登記の手続きで一字でも間違えれば取り返しがつかない。そんな緊張感の中で過ごしているのに、誰にも気づかれない。それが一番しんどい。見えない努力こそ評価されてほしいと、強く思う。

事務所という小さな世界での孤独

この事務所にいるのは自分と事務員の二人だけ。忙しさに追われ、ゆっくり話す時間すらない。雑談もなく、淡々と処理だけが進む。以前は、もっと和やかな空気だったような気がする。でも今は、互いに無言で画面に向かって仕事をしている時間の方が長い。こんなにも人と近くにいて、こんなにも遠いと感じるのは不思議だ。仕事は一人で完結できても、気持ちはどこかに置き去りのままだ。

たった二人の空間に漂う気まずい空気

朝、事務所のドアを開けた瞬間の空気感で、その日のやりにくさが決まる。お互いに疲れているのは分かってる。けれど、ほんの一言「おはよう、昨日はお疲れさま」と言い合える関係でいられたら、少しは気持ちも軽くなるのに。たった二人の世界だからこそ、空気の重さがずっしりのしかかる。そのうち、話すことすら億劫になって、ますます孤立していく。そんな悪循環が、静かに進行している。

同僚ではなく上司と部下という距離感

事務員とは仲が悪いわけではない。でも、上司と部下という立場の違いがある以上、フラットに話すのは難しい。こちらが気を使えば、向こうも気を使う。結果、必要最低限の会話だけになってしまう。たとえば雑談を振っても、どこかぎこちない返事が返ってくると、それ以上何も言えなくなる。「もっと話しかけてくれたらいいのに」と思いながら、自分も無口になっている自覚がある。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。