紹介するよの言葉にすがったあの日
「今度さ、知り合い紹介するよ」と言われたのは、もう2ヶ月前のことだ。自分から頼んだわけでもないのに、先方から言ってきた話だ。そりゃあ、信じるだろう。こちらは地方の司法書士事務所、毎日細かい業務に追われながらも、人とのご縁にはいつも飢えている。「紹介する」なんて言われたら、つい嬉しくなって、ちょっと浮かれてしまった。けど、そのあと連絡はない。まるでその一言だけが幻のように、日常に溶けていった。
いつの間にか希望の全てを乗せていた
紹介話って不思議なもので、聞いた瞬間から頭の中ではもう事が進んでいる。どんな依頼だろうか、報酬はどれくらいか、そもそもどんな人だろうかと、妄想の列車はとっくに発車していた。でも、現実は発車すらしてなかったわけで。紹介するって言葉一つに、どれだけ希望を詰め込んでしまっていたか、自分でも驚いた。仕事柄、冷静であるべきなのに、人付き合いの中ではなぜか弱くなる。期待するたびに傷つくのに、また期待してしまうのが性だ。
心のどこかで分かってた期待しすぎるなって
実は、最初からどこかでわかっていた気もする。飲みの席のテンションだったし、相手も適当に言っていたかもしれない。でも、それでも「紹介する」って言われた以上、何かしら期待してしまうのが人情というもの。司法書士としては「証拠がない限り確証とは言えない」と頭では理解してるくせに、感情はそんな理屈を簡単に飛び越えてしまう。結局、自分が自分に裏切られてるような、そんな気分になるのが一番しんどい。
けれども来ない連絡に揺らぐ自尊心
紹介されなかったこと自体よりも、放置された自分に価値がないように思えてくるのがつらい。忙しいんだろうな、忘れてるだけかなと、何度も相手をかばいながら、ふと我に返ると「いやいや、こっちがどれだけ待ってると思ってるんだ」と腹が立ってくる。でも怒るわけにもいかないし、催促なんて絶対できない。結果として、自分の中で自尊心が少しずつ削れていく。待つこと自体が、こんなにも苦しいなんて思ってもみなかった。
司法書士という職業と人付き合いのジレンマ
司法書士の仕事って、基本的に信頼が命だ。信頼されなきゃ書類も預けてもらえないし、仕事も続かない。だからこそ、人とのつながりには敏感になる。でも、その一方で、プライベートではどうしても一歩引いてしまう。「紹介してもらう」なんて、まるで人のご厚意にすがるようで、情けない気持ちになる。紹介してもらわなきゃ依頼が来ないのか、って思ってしまう瞬間がある。仕事上は信頼を大事にしてるのに、私生活ではその信頼に裏切られているような、矛盾した日々だ。
信用が資本のはずなのに 信じるのは損か得か
司法書士は信用が第一、なんて言葉は何度も聞いてきたし、自分でもそう信じてきた。でも最近、その“信じる”という行為自体がバカを見る元なんじゃないかと思うことが増えた。紹介話もそうだし、人との約束も、どこまで信じていいのかわからなくなってくる。信じた方が人間関係は円滑になるのはわかってる。でも、信じるたびに裏切られると、もう信じたくなくなる。人間って、そんなに都合よく割り切れない。
元野球部のノリは通用しない
昔は、元野球部ってだけで何となく打ち解けられた。声が大きいとか、礼儀正しいとか、そんなことでも評価された。でも司法書士の世界では、そんな体育会系ノリは通用しない。静かに淡々と信頼を積み上げることが求められる世界。だからこそ、ちょっとした“紹介するよ”みたいな、軽い言葉に引っかかるのかもしれない。なんか、部活の後輩時代に先輩から言われた「今度飲みに行こうな」と同じ空気を感じてしまう。
仕事では律儀に返すのに 私生活では無視される不条理
仕事の連絡には即レスするし、書類のチェックも何重にもやって、信頼を得るよう心がけている。でも、プライベートの人間関係はそんなふうにはいかない。連絡が来ない、返信がない、紹介もない。まるでこちらの律儀さが滑稽にすら感じる。仕事と人間関係のギャップに、ふと心が折れそうになる瞬間がある。なぜこんなにも必死なのに、報われないのか。頑張るほど空回りしてる気がしてならない。
紹介に頼らない道を選んだ日
もう紹介は期待しない。そんな日が来るとは思わなかったが、今ではむしろスッキリしている。待たないことで心が安定するなら、その方がずっと健康的だ。もちろん紹介してもらえるに越したことはないけど、なければないで、自分のペースでやっていく。依頼は一件ずつ、地道に積み上げていくしかない。それが司法書士という仕事であり、自営業という現実なのだ。
待たない それが自衛の第一歩
何かを待つことって、実はものすごく疲れる行為だ。相手の気まぐれに心が振り回されるぐらいなら、最初から期待しない方がいい。それが自分を守る方法なんだとようやく気づいた。自分で動いた案件は、結果がどうであれ納得できる。でも、人任せにした話は、結果が出ないとどうしても悶々としてしまう。そんな自分にサヨナラしたくて、もう「紹介するよ」には期待しないことに決めた。
一件一件を丁寧にやるしかない
紹介がなくても、仕事は来る。それは過去の実績が証明してくれている。地元の方がリピーターとして依頼をくれたり、口コミで問い合わせがあったり。派手さはないが、確実に信頼を積み重ねていく。それが司法書士の王道なんだと思う。焦っても仕方ない。地味にコツコツやるしかない。そう思えるようになっただけでも、紹介話に振り回されたことにも意味があったのかもしれない。
紹介なんて結局 他力本願だったのかも
紹介されること自体が悪いわけではない。でも、それを当てにしていた自分は、どこかで他力本願だったと思う。期待して、裏切られて、傷ついて、ようやく気づいた。人に頼る前に、まずは自分がしっかり立っていなきゃいけない。そうじゃないと、どんな話が来てもブレてしまう。だからもう一度、自分の足で立ってみようと思う。紹介なんて、あればラッキー。そのくらいでちょうどいいのだ。