やる気は出ないけど少し救われた面談の話

やる気は出ないけど少し救われた面談の話

やる気は出ないけど少し救われた面談の話

司法書士という仕事は、やる気だけでは続かないことが多い。やる気があるに越したことはない。でも、それが空回りするとただの疲労になる。自分のような独身で人付き合いも苦手な人間にとって、孤独な戦いが日常になっている。そんな中、何気ない一言に救われた日があった。あれほどやる気が出なかったのに、不思議とその日だけは少しだけ前向きになれた。今日はその時の話を少し書いてみたい。

朝から疲れていたあの日のこと

その日は朝から何もかもうまくいかなかった。コピー機は紙詰まり、メールは迷惑フォルダに届いていたし、依頼人からは怒りの電話。日頃の疲れが溜まりに溜まっていたのだろう、ただ座っているだけで胃が重たかった。事務員の彼女も忙しそうにパタパタ動いていて、声をかける余裕すらなかった。こういう日は「今日という日がなかったことになればいいのに」と本気で思う。

書類の山と電話の嵐

机の上はまるで山積みの古紙回収場。ひとつ終わればまたひとつ増える。電話も鳴り止まず、内容はだいたいクレームか急な依頼の押し付け。どれだけ真面目にやっていても評価されることは少なく、文句ばかりが耳に残る。事務所を構えて十年以上経つが、こういう日は今でも慣れない。忙しさというより、理不尽さに押しつぶされそうになる。

相談予約は減らないが収入も伸びない

予約は相変わらず埋まっている。でも、それが収入に比例するかといえばそうではない。報酬の請求が後回しになる案件も多く、時には泣き寝入りするしかないこともある。仕事は確かにある。でも、それが心の支えにはなっていない。相談件数だけが積み上がっていく感覚に、焦燥感ばかりが募っていた。

面談が入っていたのを正直忘れていた

昼を過ぎた頃だった。事務員がぽつりと「先生、今日の15時、面談ですよ」と言った瞬間、完全に忘れていたことを思い出した。まさか今日だったとは。頭は別の処理でいっぱいだった。正直、行きたくなかった。できることなら誰かに代わってほしかった。

事務員のひと言に我に返る

「前にも相談された方なので、きっと気楽に話せますよ」――その言葉が妙に刺さった。そうか、こちらが構えすぎていたのかもしれない。無理に良い対応をしようとして、自分の首を絞めていたのかも。事務員の一言に、少しだけ心が柔らかくなった気がした。

気持ちを切り替えられないまま迎えた相談者

それでも、気持ちの切り替えは簡単じゃない。待合スペースに座っていた相談者の顔を見ても、内心はどんよりとしていた。笑顔も作り物っぽくなる。声も少し上ずってしまう。だが、相手は穏やかな表情で「またお願いしたくて」と言ってくれた。それだけで、少し肩の力が抜けた。

何気ないやりとりの中でふと心が緩む

面談の内容は特別なものではなかった。相続についての相談だったが、前回の手続きから特に大きな変更もなく、確認事項がほとんど。こちらとしては淡々と説明を続けていたが、相手の反応がやけにあたたかかったのが印象的だった。

「先生も大変ですね」の一言に救われた

「こんなに親切にやってくださって、先生も大変ですね」――その一言に、不意に胸が詰まった。褒められたわけでも、慰められたわけでもない。でも、認めてもらえた気がした。自分の頑張りを見てくれる人がいる、それだけで十分だった。

言葉の重みってこんなにあるのかと実感

普段は流してしまいそうな一言だった。でも、その日は違った。荒んだ心にぽつんと染みる言葉だった。言葉の重みというのは、内容よりもタイミングと気持ちなのかもしれない。あの時の自分に必要だったのは、まさにこの「一言」だった。

面談が終わっても残る安心感

面談が終わってからもしばらくはその余韻が残っていた。コーヒーを飲みながら、久しぶりに自分を責める気持ちが少し和らいでいることに気づいた。忙しさも理不尽さも変わっていない。それでも、気持ちが少しだけ軽くなっていた。

「もうちょっと頑張ってみようかな」と思えた理由

何か大きな変化があったわけではない。でも、心の奥底で「あともうちょっとだけ頑張ってみようかな」と思えたのは確かだった。評価されたいとか、成功したいとか、そんな気持ちじゃなくて、ただ今の場所で踏ん張ってみようと自然に思えた。

優しさに気づけない毎日だったかもしれない

この仕事をしていると、トラブルやミス、怒られることばかりが印象に残る。だから、ふとした優しさに気づく余裕がなくなる。でも、それがちゃんと存在していることに気づけた日だった。気づけたことで、自分の見方も少し変わった。

この仕事で孤独を感じるとき

司法書士という職業は、基本的に一人でこなすことが多い。相談に乗る側だから、弱音を吐く場も少ない。ふとした瞬間に、ものすごく孤独を感じる。誰かに頼りたくても、それができない性分でもある。

誰にも弱音を吐けない職業

「先生はしっかりしてるから」なんて言われるけど、そんなことはない。しっかりしてるように見せないといけないだけ。だから、どんなに苦しくても、誰にも言えないことのほうが多い。でも、それを黙って抱えてると、どこかで崩れてしまう。

だからこそ響く「一言」

何もかも抱え込んでいるからこそ、ふとした一言に敏感になるのだと思う。あの面談のように、たった一言でも、自分を救ってくれることがある。だから、言葉を大事にしたい。自分も誰かにとって、そんな「一言」を届けられる人間でありたいと思う。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。