何を話せばいいかわからない

何を話せばいいかわからない

誰かと話したい気持ちはあるのに

日々の業務に追われながら、ふとした瞬間に「誰かと話したいな」と感じることがある。忙しいのに、心のどこかにぽっかり穴が開いているような気がして。電話やメールではやり取りしていても、それはすべて「仕事の話」。こちらが話したいのは、そんな事務的な話ではなくて、もっと素の自分のままでいられる会話だ。だが、それが難しい。話そうと思っても、いざ誰かを目の前にすると、何を話せばいいかわからなくなる。この感覚、きっと私だけではないはずだ。

仕事の合間にふと感じる孤独

法務局からの帰り道、車内で流れるラジオのパーソナリティがやたらと楽しそうに笑っていた。それを聞きながら、「この人たちは毎日こんなに楽しく話してるんだな」と思った瞬間、妙に胸が詰まった。私は誰とも笑って話していない。事務所に戻れば、目の前の書類、期限、チェックリスト。電話の向こうも無機質な声。誰かと他愛もない話をしたいと思うが、それを叶える相手がいないことに気づく。笑い声すら、久しく出していないように思う。

会話のない昼食時間が余計に心に響く

昼休みにコンビニで買ってきたサンドイッチを、事務所の机で黙々と食べる。その向かいには事務員さんがいるが、彼女も黙ってスマホを見ている。別に気まずいわけじゃない。でも、なにかぽつりと声を出せばよかったのかもしれない。「暑いですね」とか、「このサンドイッチ、意外とうまいですね」とか。でも、その一言が出てこない。「話しかけたら迷惑かもしれない」と思ってしまう自分がいる。結局、沈黙のまま時間が過ぎていく。

スマホを眺めても誰にも連絡できない現実

昼休みにスマホを開いても、連絡を取りたい相手がいない。LINEの履歴も、通知もない。たまに仕事関係で誰かが送ってくれるスタンプすら、ありがたいと思ってしまう。独身であることに不満はないつもりだったけれど、こんなときふと「誰か話せる相手がいたら」と思う。電話帳をスクロールしても、結局何もせずに画面を閉じる。連絡先はあるのに、連絡できない。話したいけれど、話せない。自分の壁を、自分で作っているような気がして、情けなくなる。

事務員さんとの距離感に悩む

うちの事務所には、ひとりの事務員さんがいてくれて、彼女には本当に助けられている。だが、距離感が難しい。上司としての立場、年齢差、性別、さらにはお互いの性格。何気ない話をするだけで、「どう思われるだろう」と頭がぐるぐるする。妙なことを言って変な空気になったらどうしよう、などと考えすぎて、結局何も言えなくなる。気軽に世間話をするという、当たり前のようなことが、実はとても難しい。

話しすぎると煙たがられそうな恐怖

数年前に、雑談が好きだった事務員さんがいた。そのときはよく話をしたし、こちらもそれなりに気楽だった。しかし、ある日ポロッと彼女から「先生、話が長いです」と言われた。その言葉が、いまだに心に刺さっている。あれ以来、「話しすぎてないか?」「うざくないか?」といちいち自問自答してしまう。人と話すのが怖くなった瞬間だった。世間話すら恐怖になるような関係性って、いったいどうしたらいいのだろう。

気を使いすぎて疲れる自分にげんなり

結局、自分が一番話したいのは「気を使わなくていい相手」との会話なんだと思う。でも、それが誰にもいない。事務員さんにも気を使い、同業者にも気を使い、家族ともあまり連絡を取らない。誰といても「ちゃんとしなきゃ」と思ってしまい、心が休まらない。話すことでリラックスしたいのに、話すことで疲れてしまう。そんな悪循環に、自分で自分が面倒になる。でも、それが現実。だから今日も、黙ってパソコンに向かっている。

会話が必要なのは仕事だけなのか

司法書士という職業は、どうしても「会話=業務連絡」になりがちだ。登記の説明、必要書類の案内、期日確認。どれも必要なことではあるけれど、「人と話す」という感覚とはちょっと違う。淡々と話すだけの日々が積み重なっていくと、自分の声がどんなトーンだったかさえわからなくなるときがある。私は人間として誰かと話してるんだろうか、それとも単なる連絡装置になってしまったんだろうか。そんな不安すら湧いてくる。

お客さんとのやり取りは機械的で十分なのか

「簡潔に」「無駄なく」「要点だけ」。それがプロの対応だと信じてきた。確かに、効率はいい。でも、いつしか「この人に相談してよかった」と思ってもらえるような関係性が築けていないのでは、と感じるようになった。もちろん時間も余裕もない。でも、一言の雑談が、相手との信頼を築くきっかけになることもあるはず。そうわかっていても、その一言が出てこない。プロらしさと人間らしさのバランスって、本当に難しい。

必要以上に話すと「暇なのか」と思われそうで

少し前、事務所に来た依頼者と、ちょっと世間話をしただけで「先生、今日は空いてるんですね」と言われたことがある。それが妙に引っかかってしまった。雑談=暇と思われたくないという小さなプライド。これが、余計に自分を黙らせてしまう。話すって本当に難しい。タイミングも内容も、選び方を間違えると信頼を損ねる。そう考えてしまうから、結局「何も話さない」が最も安全という結論にたどりついてしまう。

元野球部のノリはもう使えないと気づいた瞬間

若いころは、場を和ませるためにちょっとした冗談や軽口も交えて話すタイプだった。元野球部のノリで、「おお、元気出していこう!」みたいな。けれど司法書士の世界に入ってから、それがまるで通用しなくなった。堅さ、信頼、落ち着き。そういったものが求められる場では、軽いノリは逆効果になる。時には場違いと受け取られてしまう。結局、誰かと雑談することも、慎重に計算するようになってしまった。寂しいけれど、それが今の現実だ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。