独立して分かったこと良かったこともあるけどしんどさのほうが記憶に残る

独立して分かったこと良かったこともあるけどしんどさのほうが記憶に残る

独立当初の理想と現実のギャップに打ちのめされる

独立して事務所を構えた日のことは今でもよく覚えています。夢と期待で胸がふくらんでいたあの頃、まさかこんなにもしんどい日々が待っているとは思いませんでした。自由に働ける、ストレスの少ない環境で、自分の力を存分に発揮できるはずだと信じていたのに、現実は甘くなかった。事務所の家賃、備品の準備、最初の集客…とにかくやることが山積みで、夢なんて語っている暇もなく、現実とのギャップに押しつぶされそうでした。

開業の夢にあった自由という幻想

「独立したらもっと自分らしく働ける」と、よく聞く言葉ですが、実際はまるで違いました。たとえば、以前勤めていた事務所では、仕事が終われば帰ることができたし、ある程度の責任は分担されていました。でも独立してからは、何から何まで全部自分でやる。書類作成も、電話対応も、トイレ掃除も。時間の自由なんて存在せず、「夜中に印鑑が必要」と連絡が入れば、着替えもせずに車を走らせる羽目になります。

毎日定時に帰れると思っていたあの頃

開業したての頃は「夜7時には帰って、ゆっくりご飯を作ろう」と考えていた自分がいました。ですが、実際は19時にようやく電話が落ち着く時間帯。そこから請求書の確認や、次の日の準備に追われて、気がつけば22時を過ぎている。誰にも強制されていないのに、なぜか昔より働いている。自由とは、時間を好きに使えることではなく、すべての責任を自分で負う覚悟だと、痛いほど理解しました。

自分のペースで働けるはずだったのに

「自分のペースで」とよく言われますが、依頼者はそんな事情を知らないし、そんな配慮も期待できません。「今週中に何とかしてください」と言われれば、予定を全部変更して対応するしかない。趣味の草野球に誘われても、先に入っていた仕事を優先する日々。自分のペースとは、あくまで「空いている時間をどう埋めるか」だけであって、「やらない」という選択肢はありませんでした。

実際には自由どころか不自由の連続

仕事の内容こそ自分で選べるはずなのに、現実は依頼が来たら断れない、という苦しい矛盾に縛られます。特に地方では口コミが命。少しでも冷たい対応をすれば、次は来ないかもしれないという不安が常にあります。そのため、結局は相手の都合に合わせ、常に先回りして動く羽目になるのです。自由どころか、不自由の連続。独立して得たのは、誰にも守られないという現実でした。

クライアントの都合で土日も潰れる

「土日は事務所を閉めて休もう」と思っていたのに、実際はクライアントからの「この日しか都合がつかないんです…」に負けてしまう。結果、土日も平日と変わらないスケジュール。しかも家族のいる方は「このあと家族と食事なので」と断れるけど、独身の私は何も言えず、予定が空いているなら…と引き受けてしまう。人間関係も仕事も、土日も全部ごちゃ混ぜです。

自分の健康よりも依頼を優先する日々

風邪を引いても休めないのが一人事務所の現実です。熱があっても、役所への書類提出は待ってくれませんし、依頼者に「今日だけは…」と言う勇気も持てない。結果、体調が悪いときほど無理をして、余計に長引く。誰かが代わってくれるわけじゃないからこそ、無理をするしかない。いつしか「健康」は贅沢品のように思えてきます。

良かったことはあるにはある

ここまで散々こぼしてきましたが、それでも良かったと思える瞬間もあります。特に「自分で選ぶ」ことができる点は、大きな変化でした。たとえば、苦手な業務を避けたり、自分なりのやり方で効率化したり。自分が責任を持つ分だけ、工夫の自由もあるという点では、会社勤めでは得られなかったやりがいがあります。

自分の裁量で仕事を回せる喜び

会社勤めのときは、「それは前例がない」と言われるたびにやる気を削がれていました。独立してからは、自分でスケジュールを組み、自分で判断して動けるようになったことで、仕事の効率が格段に上がりました。もちろん失敗したときの責任も重いですが、うまくいったときの達成感は格別です。結果が自分に返ってくるからこそ、やりがいも実感できます。

やりたい仕事を選べる自由

たとえば、登記だけでなく相続や成年後見の相談にも対応したいという希望がありました。今では自分の方針に合わせて、徐々にそうした業務の比重を増やせています。以前は「その案件は他所に振ってください」と言われていたのに、今は「やってみよう」と言える。この選択の自由は、独立していなければ得られなかったものです。

上司の顔色を見なくていい安心感

朝の会議で怒鳴られることもなければ、意味不明なルールに縛られることもない。これは思っていた以上に精神的に楽です。たとえ忙しくても、自分で納得した方針で動いているという感覚は、心の安定にもつながります。嫌な人間関係から解放されただけでも、独立して良かったと感じる瞬間は確かにあります。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。