まだ結婚しないのと聞かれる帰省がつらいだけ

まだ結婚しないのと聞かれる帰省がつらいだけ

まだ結婚しないのと聞かれる帰省がつらいだけ

「おかえり~!ほら、◯◯くん、シンドウおじさんにご挨拶して!」

玄関先で待ち構えるのは、いとこのミホ姉さん。二児の母。どちらもYouTuber志望(未登録)。彼女の声を聞いた瞬間、私は鰹節のように削られていく感覚を覚える。

「こんにちは~!」と元気よく頭を下げる甥っ子に返事もそこそこ、私は心の中でつぶやく。

やれやれ、、、また今年も始まったか。

荷物を置くや否や、リビングに通され、囲まれるのは親戚の精鋭たち。叔父、叔母、祖母、母、そして例によって元気な子どもたち。そう、ここは“独身男性狩り”の舞台、「年末帰省ミステリーツアー」の始まりである。

第一章 まだ結婚しないの殺人事件

「ところで、シンドウくん。もう四十五?まだ結婚しないの?」

開口一番、叔母の声。まるで密室で放たれた銃声のように響く。

ふと脳裏をよぎるのは、小学生の頃のサザエさん。波平が「カツオ!また遅刻かっ!」と怒鳴るあのテンプレ会話。あれと似た頻度で、私は「まだ結婚しないの?」を受け取ってきた。

「まあまあ、本人に任せましょうよ」と笑って取りなす母は、なぜかチラチラこちらを見る。私に代わって変装してくれる怪盗キッドが現れないかと本気で願ったが、彼は婚姻届のトリックには興味がないらしい。

第二章 結婚という名の固定観念

「でも、子どもがいた方が老後安心よ」「老後?僕まだ現役なんだけど…」

心の中でそう突っ込むが、口には出さない。司法書士とは、時に忍耐の職業でもある。

「いい人紹介しようか?」「この間、バツイチの子がさ…」

探偵漫画ならそろそろ“真犯人の動機”が語られるころだ。だがこの場合、真犯人はおそらく“空気”だ。昭和の時代から抜け出せず、「男は結婚してナンボ」という空気が、未婚男性の首を絞める。

第三章 サトウさんの推理

帰省から戻ると、事務所ではサトウさんがコーヒーを入れてくれていた。彼女は私が何も言わなくても、すべて察していたようだ。

「先生、どうせまた“結婚してないの?”って言われたんでしょ?」

「……名探偵かよ」

「いっそ、“結婚は三回まで”って言ってやればいいんですよ。ギャンブルにしとけば、一回負けたくらいじゃ誰も何も言いませんし」

皮肉とユーモアの絶妙なブレンド。それを飲みながら、私はほんの少しだけ、心がほどけた。

最終章 独身という名の選択肢

帰省という“謎解き”を終え、また普段の仕事に戻る。今日も登記簿とにらめっこ。誰の結婚でもない、誰の離婚でもない、ただの土地の権利変更。それがどれほど静かで、尊いものか。

結婚していない自分を責める必要はない。家族の定義が多様化するこの時代、独身であることもまた一つの尊重される“形”だ。

サザエさんのようにオチはないかもしれないが、それでも日常は続いていく。

私は静かに目を閉じ、つぶやく。

「やれやれ、、、来年は帰省、どうするかな」

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓