新人時代の自分に言ってやりたい五つの後悔と一つの救い

あの頃の自分はがむしゃらだったけど空回りしていた

新人の頃はとにかく「やらなきゃ」という気持ちだけで突っ走っていた。朝から晩まで、がむしゃらに働けば何かが報われると信じていた。でも、今思えば、あれは努力の方向を間違えていただけだった。頑張っているつもりでも結果が出ず、先輩にも迷惑をかけ、自分を責めてばかりいた。

「早く来て早く仕事を覚えろ」そんな空気に飲まれ、気づけば毎日7時には事務所の電気をつけていた。タイムカードなんてなかったから、帰る時間も自由。その代わり誰も残業代の話なんてしなかった。ある意味、あの頃は仕事＝人生だったんだと思う。夜遅くにコンビニで買うカップラーメンがご褒美だった。

元野球部の名残なのか、練習すればうまくなる、努力は必ず報われる、そんな風に信じていた。でも司法書士の仕事は、量じゃなくて質だった。丁寧な確認、的確な判断、そしてミスを未然に防ぐ冷静さが求められる。泥臭い努力だけじゃ空回りすることを、僕は痛いほど知った。

相談すれば迷惑になる、そんな気持ちが先に立って誰にも話せなかった。今思えば、誰もそんな風に思ってなかったはずなのに、自分のプライドが邪魔をした。電話一本の対応に一時間悩んでいたこともある。「バカだなあ」と笑えるようになったのは、ずいぶん後の話。

当時は「手を止めることは悪」と思っていた。でも今は、立ち止まることで見えることがあると知っている。ぎゅうぎゅうに詰め込んだ予定では、トラブルが起きた時にどうしようもなくなる。スケジュールにも心にも、余白は必要だったんだ。

全部を完璧にやろうとして、全部中途半端だった。やるべきことと、やらなくていいことを見極める勇気が必要だった。例えば、全件ファイルを並び替えてラベルを貼る作業に3時間かけていたあの日、「意味があるか」より「やった気になるか」を優先していた気がする。

常にいっぱいいっぱいだと、誰かの一言にもイライラしてしまう。そんな時期もあった。余裕があると、相手のミスにも優しくなれるし、自分の失敗にも冷静になれる。空白の時間が、関係の潤滑油になることを、ようやく理解できるようになった。

当時の事務所には先輩もいたし、同業の知り合いもいた。でも「こんなことも分からないのか」と思われるのが怖くて、誰にも聞けなかった。聞くこと＝恥と思っていた自分の、なんと不器用だったことか。

「見て学べ」はたしかに美徳かもしれない。でも、それを受け取る側の準備ができていないと、ただの放置と変わらない。先輩が使っていたあの謎の略語、どれだけ検索してもヒットしなかった。あれ、ただの癖だったと後で知った。

変なプライドだった。「一度聞いたら一生覚えられない気がする」と思っていた。だから、自分でなんとかしようとして余計こじらせる。ミスがバレないように、その場しのぎで帳尻を合わせて、あとで爆発。そんなことの繰り返しだった。

「誰かが察してくれるだろう」そう思っていた。でも、忙しい職場で誰かが気づいてくれるなんて幻想だった。声を出さなきゃ誰も気づかないし、黙っていたら状況は悪くなる一方。今は逆に、後輩が困っていそうなとき、こちらから声をかけるようにしている。

正直、辞めようと思ったことは何度もあった。でも、辞めなかった。それが良かったのかどうかは分からないけれど、今こうして事務所を持ち、事務員さんと一緒に仕事をしている自分がいる。ゆっくりでも、自分のペースで続けてきたことが、少しだけ誇りになっている。

「自分は司法書士に向いていないんじゃないか」そんな風に悩む夜もあった。お酒を飲みながら、空っぽの部屋で泣いたこともある。今思えば、向いているとかじゃなくて、「慣れるかどうか」だったんだと思う。逃げなかった、それだけで自分を褒めたい。

辞めてもよかった。でも、辞めなかった。たぶん、あのとき踏ん張ったからこそ、今の自分がいる。相談される立場になって、ようやく気づいた。誰かの役に立てるって、こんなに報われることなんだと。あの頃の自分にも、ちゃんと意味があった。

後輩ができたとき、自分が先輩になるなんて想像もしていなかった。でも、「自分がしてほしかったこと」を思い出しながら接するようになったら、自然と心が軽くなった。人に教えることで、自分が救われることもある。それは新人時代には知らなかった、大事な事実だった。