目の前の書類よりぬくもりがほしくなる日

目の前の書類よりぬくもりがほしくなる日

司法書士という仕事の充実感と孤独感

司法書士という仕事には、他人にはなかなか見えない「誇り」と「孤独」が同居しています。登記が通った瞬間の達成感や、依頼者からの感謝の言葉は間違いなくやりがいです。しかし同時に、誰かと喜びを分かち合う場面が少なく、黙々と書類に向き合う日々に、ふと人の温もりが恋しくなる瞬間もあります。仕事としての充実と、心の充足とは別問題なのだと気づかされます。

充実はしているけれど何かが足りない

登記の書類を完成させたときや、相続の相談で「先生にお願いしてよかった」と言われたとき、それなりに満たされた気持ちになります。でも、そこにはどこか「一瞬の達成感」でしかないと感じる部分もあるんです。結局、また次の案件に追われ、忙しさに埋もれて心を見失いそうになります。あの充実感を心から誰かと共有できたら、もっと違うのかもしれないと思うのですが。

書類は話しかけてこない

事務所の机に並んだ書類は、整然と並び、黙って私の手を待っています。でも、話しかけてくることはありません。当たり前ですが、ふと寂しさを感じるんです。人の人生を扱っているのに、自分の人生がどこか「事務的」に消えていくような気さえしてしまうのです。書類との対話よりも、誰かと気持ちを交わせる時間がほしくなるのは、人間として自然な欲求なのかもしれません。

いつの間にか声を出さなくなった日常

事務所では、私と事務員の女性一人。お互いに忙しいので、必要最低限の会話しかしません。独り言も減って、来客がない日は、本当に誰とも喋らないこともあります。電話の声が聞こえた瞬間、少しホッとすることすらあります。昔、野球部でガヤガヤやっていた頃は、こんな静寂が心に刺さるとは思ってもいませんでした。

目の前の業務が片付いても心が片付かない

毎日やることは山積みで、時間はいくらあっても足りない。それでも、予定通りに業務が片付いた夜、ふと机の上を見渡すと、どこか心が置いてきぼりになったような感覚に襲われることがあります。仕事は済んだのに、何かが終わっていない。そんな違和感が、疲労とは別の重たさで心にのしかかってきます。

達成感より残るのは空虚感

たとえば、月末の忙しさを乗り越えて、今日もトラブルなく終わったと思ったその瞬間、ほっとする気持ちよりも先に、「で、明日は何のために働くのか」という空虚感がやってくることがあります。仕事は次から次へとやってくるけれど、その先に待っているのが「一人での夕食」だと思うと、少し虚しくなるんです。

書類の山は減っても孤独は減らない

依頼者の問題は一つずつ解決していきます。でも、自分自身の孤独感はなぜか減らないどころか、日々増えている気がします。事務所がきれいに片付いていくほど、心の中が寒々しくなっていく。そんな矛盾を抱えながらも、誰にも言えず、ただ「忙しいから仕方ない」と自分に言い聞かせてしまうんですよね。

労いの言葉より温かい手がほしい夜

たまに依頼者から「お疲れさまでした」「先生すごいですね」と言ってもらえるのは本当に嬉しい。でも、正直に言えば、その一言よりも、誰かの手のぬくもりの方が恋しい日もあります。家に帰っても誰もいない。暖房をつけても、温まるのは空気だけで、心までは温まらない。そんな夜が続くと、仕事のやりがいすら疑いたくなってしまうのです。

優しさを向ける相手が仕事だけになっていた

気がつけば、私が一番優しくしているのは「依頼者」でした。それは司法書士として当然の姿勢だと思っています。でも、その分、自分自身のケアは後回しになっていたことにも気づきました。人に親切にすることで満たされていた部分が、本当は自分が誰かからもらいたかった優しさだったのかもしれません。

お客様にばかり優しくしてしまう理由

依頼者にはつい丁寧に接してしまいます。それは職業柄でもありますが、内心、「自分も誰かに優しくされたい」「認めてもらいたい」という欲求の裏返しなのかもしれません。だからこそ、頼られると張り切ってしまう。でも、終わってしまえば一過性の関係で、心に残るのは「自分の存在をもっと長く誰かに感じていてほしい」という思いだったりします。

事務員さんにも言えないささやかな本音

事務員さんとは長く一緒に働いているけれど、こういった弱音はなかなか言えません。相手に気を使わせたくないし、距離感も大切ですから。でも本当は、今日の夜コンビニ弁当で済ませるのがちょっと切なかったとか、テレビに映った家族団らんのCMを見て苦笑いした、そんな話を気軽にできたらいいのにと思うのです。

野球部の後輩に相談したら笑われた話

先日、地元で偶然会った高校時代の野球部の後輩に、冗談めかして「結婚ってどうやったらできるんだ?」って聞いたら、爆笑されました。「先生でも寂しいことあるんすね!」って。でも、その一言がなんだか嬉しかった。誰かにとって“先生”でも、ただの“ひとりの男”として見てくれる存在がいるだけで、救われるものです。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓