業者との信頼関係が日常に染み込む瞬間
気がつけば、朝一番にかける電話が業者になっている。別に何か急ぎの用事があるわけでもない。ただ、あの人に連絡を取っておけば今日の段取りがすんなり回る。そんな感覚がいつの間にか習慣になっていた。事務所の事務員よりも、むしろ外の業者とのやりとりの方が多い日すらある。ちょっとしたトラブルが起きたとき、「とりあえず業者に聞いてみよう」と思うのは、自分でも驚くくらい自然な流れだった。信頼があるというより、依存に近い。けれど、それが仕事を円滑に進める一番の手段になってしまっているのも事実なのだ。
ふとした時に相談しているのは業者だった
ちょっと迷った時、誰に相談するか。その答えが「いつもの業者さん」になっていたことに、ある日ふと気づいた。例えば書類のやりとりでイレギュラーがあったときや、登記の内容で微妙な判断が必要なとき。真っ先に浮かぶのは、昔から付き合いのある登記関連の業者や、測量事務所の担当者だった。彼らとは長年の付き合いだし、こちらの事情も分かってくれている。家族でもない、従業員でもない。でも、自分にとっては一番「話が通じる人」になっていた。それってどうなんだろう、と少しだけ立ち止まった。
電話の第一声がもう気安い
「もしもし、○○先生ですか?またトラブルですか?」というやり取りから始まる電話。普通なら「また?」なんて言われたらカチンと来そうなものだけど、不思議とこの業者の言い方には安心感がある。ああ、今日もこの人に助けてもらえるな、という感覚。事務所の中では誰にも愚痴ひとつ言えないけど、業者にはなぜか素直に「ごめん、ちょっとミスったかも」と言える。言葉を選ばずにやり取りできるのは、長い付き合いの中で築かれた信頼の賜物なのかもしれない。でも同時に、そこまで頼っている自分にも少し不安を感じる。
「またトラブルですか?」がもう合言葉
ある意味、この一言が心の支えになっている。言われるたびに「またか…」と苦笑しながらも、ちゃんと対応してくれることがわかっているから、気持ちがラクになる。「今忙しいけど、優先してみますよ」と言ってくれるその一言に、どれだけ救われてきたことか。まるで、何度エラーを出しても処理してくれるパソコンのような安心感。だがそれと同時に、「これがパートナーだったら、どうだっただろう」と考えることもある。人間関係の重さや期待を気にせずにやり取りできるというのは、実はとても貴重なことなのだろう。
パートナーより業者が頼りに見えてしまう理由
信頼関係というのは時間と回数を重ねて育つものだ。それは家族でも、恋人でも、職場の仲間でも同じだと思っていた。けれど今、自分がもっとも頼りにしているのは、実は外部の業者たちだ。仕事上のパートナーよりも、感情のやり取りがなく、淡々と対応してくれる彼らの方が、よほど心地よく感じてしまう。忙しさの中で、感情の波に巻き込まれたくないという防衛反応なのかもしれない。けれど、この感覚に慣れてしまうと、いざというときに人間関係が希薄になってしまう恐れもある。
専門用語が通じる安心感
「これって、いわゆる仮登記の扱いでいいんですかね?」というような言葉がすっと通じると、それだけで一気に楽になる。業者とは、専門用語や独特の業界ルールが前提として共有されているので、いちいち説明する必要がない。その点、事務所内や外部のパートナーとは、少しずつすり合わせが必要だったりして、逆に気を遣ってしまう。説明を重ねるうちに、「もういいや、自分でやった方が早い」と感じてしまうこともある。だからこそ、業者とのやり取りが心地よく感じるのだろう。
感情を挟まない距離感が心地いい
人間関係って、どうしても感情が絡む。仕事の話をしているつもりが、いつの間にか感情のぶつかり合いになることもある。その点、業者との関係は常にフラットだ。業者もこちらの時間を無駄にしないように話をまとめてくれるし、自分も相手に無駄な感情を求めない。この距離感が、意外と心の平穏につながっている。言い方を変えれば「情がない」とも言えるが、今の自分にはむしろその方がありがたい。誰かに気を遣いすぎて疲れるより、冷静なやり取りができる関係の方が長続きする。
「はいわかりました」の一言が沁みる
何かを依頼したとき、「それは無理ですね」とか「どうしてそんなやり方を?」という反応が返ってくると、少しずつ自信が削られていく。そんな中で、「はい、わかりました。対応しておきます」という一言がどれだけ救いになるか。すべてを無条件で受け入れてくれるわけではない。でも、まずは受け止めてくれる。その姿勢に、こちらも安心して任せられる。厳しさや意見よりも、まずは肯定してくれる人がいるというだけで、仕事のストレスは大きく軽減されるのだ。
この信頼関係がもたらす副作用
業者に頼りすぎてしまうことにはリスクもある。例えば、何かイレギュラーな状況が起きたとき、つい「いつもの業者にお願いすれば何とかなるだろう」と考えてしまう。だが、その人が休んでいたり、業務が変わっていたら? そのときの準備ができていない自分に気づいて、焦る。業者との関係が良好であることは悪いことではないが、それが「自分の仕事の一部を外に預けている状態」だという意識は持っておかないといけないと痛感する。
相談の順番が逆転している
何か問題が起きたとき、本来なら事務所内でまず共有し、どう対応するかを話し合うべきだ。けれど最近は、先に業者に相談してから、事務員に「こうすることにしたから」と報告していることが多くなった。それが悪いわけではないにしても、組織の中の信頼のバランスが少し歪んでしまっている気もする。事務員にしてみれば、「え、もう決まってるんですか?」という気持ちになることもあるだろう。自分の中の優先順位が無意識のうちに変わってしまっている証拠かもしれない。
誰よりも業者にスケジュールを合わせる日々
打ち合わせの日程を組むとき、まず最初に確認するのが「業者の都合」。それから、事務員や他の関係者の予定を後付けで調整するというのが常態化している。ふと冷静になって考えてみると、これは逆ではないか? けれど、それでも優先したくなるほど、業者が要の存在になっている。これは信頼というより、「この人がいないと仕事が回らない」という依存に近い。気がつけば、業者が急に休んだだけで事務所の空気がピリつくようになってしまっていた。
それでも頼らざるを得ない現実
ここまで業者に頼りきっている現状を「ダメだなぁ」と思いつつも、完全に断ち切ることは難しい。特に地方の小さな事務所にとって、外部とのネットワークは命綱だ。頼れる人が限られている中で、信頼できる業者がいるというのは本当にありがたい存在でもある。そのありがたさと危うさの両方を感じながら、それでも日々の業務をこなしている。完璧なバランスは取れない。でも、気づいたときに軌道修正できる自分でありたい。
少人数事務所ならではの外注依存
事務員が一人、代表が一人。そんな構成で仕事を回していくには限界がある。だからこそ、測量、登記申請、書類チェック、スキャン業務など、外部に頼れる部分は外に出してしまう。その分、業者との信頼関係は命綱になる。ミスが少ない、返信が早い、融通が利く。そうした業者は、もう一人のスタッフのような存在だ。だけど、それが「外注」である以上、いつか関係が切れる可能性はゼロではない。その不安もまた、ずっと胸のどこかに残っている。
愚痴も業者に漏れてしまう日常
「また法務局、言ってること違っててさ」「うちの事務員、最近ちょっと気が抜けててね」——こんな話が、つい業者との雑談の中で漏れてしまう。それは本音でもあり、弱音でもある。業者も「いや〜、うちもそうですよ」と返してくれて、少しホッとする。でもふと、「これって本来、事務所の中で共有する話なんじゃないか」と思う瞬間がある。外の人に頼りすぎて、内の人との距離が少しずつできてしまうことに、もう少し敏感にならなければいけない気がする。
業者との関係を見直すきっかけ
信頼できる業者がいるのは素晴らしいことだ。でも、それに甘えてばかりいては、自分たちの足腰が弱くなる。事務員との関係、パートナーとの関係、自分自身の立ち位置をもう一度見直すことが必要だ。信頼のバランスがどこかに偏ってしまったときこそ、それを自覚し、丁寧に修正していく力が問われるのかもしれない。頼ることと任せきることは違う。その違いを見誤らないように、これからの仕事に向き合っていきたい。
本当に大事にすべき信頼とは
信頼とは、何かをお願いしたときに「任せてください」と返ってくる安心感だと思っていた。でも、それだけじゃなかった。何も言わなくても察してくれること。時には意見をくれること。そして、ときには「先生、それ違うんじゃないですか」と指摘してくれること。そういう関係こそが、本当に大事にすべき信頼なのかもしれない。業者との関係がその域に達しているなら、それは誇っていい。でも、同じレベルの信頼を、もっと身近な人たちとも築いていかなければいけないと思う。
仕事以外のつながりを築く難しさ
忙しさにかまけて、仕事以外の関係づくりをおろそかにしてしまっていた。食事に誘うでもなく、雑談を交わすでもなく、ただ仕事のためにだけ人と会う毎日。それが「信頼関係」の土台としてはあまりに脆弱だということに、最近になってようやく気づいた。仕事の話をしなくてもつながれる関係。そんな人間関係を意識的に作らないと、気づいたときには本当に「仕事だけの人生」になってしまう。その怖さが、今は少しずつ現実味を帯びている。
一人で抱えるには限界がある
結局のところ、全部一人で抱えていたいと思ってしまう自分がいる。ミスをしたくない、迷惑をかけたくない、だから頼らない。けれどそれが限界を超えると、心のどこかが壊れてしまう。だからこそ信頼できる業者がいることは本当に救いだ。でもそれと同じくらい、事務員や周囲の人ともきちんと信頼関係を築いていくことが必要だ。誰かを信じて任せることは、決して逃げではない。むしろ、その勇気を持てるかどうかが、今の自分の課題なのかもしれない。