登記の通知ばかりが俺を励ます
「ピロン」
昼下がりの静寂を破って、スマホが小さく鳴った。
その音に反応して、俺は一瞬、LINEかと期待してしまう。サトウさんが目線だけでこちらを見る。彼女はわかっている。
俺が期待して、そして落胆するのを。
仕事用スマホが鳴るたびに思うこと
期待して開けば登記情報
画面を見る。
はい、登記情報提供サービス様、いつも迅速な通知ありがとうございます。
サトウさんの冷静な一言
「先生、また登記ですね」
「先生 また登記ですね」
冷めた声だが、否定はしない。事実だ。
やれやれ、、、俺の通知欄は今日も登記で埋まっていく。
LINEの通知が来ない日常
既読がつかない そもそも来ない
久しぶりに既読になったLINEは、不動産屋からの書類確認依頼だった。
人との会話よりも、登記と書類が俺と向き合ってくれている。
友人関係も登記に勝てない
大学の野球部グループLINEは、去年の「謎の再会飲み」で止まったままだ。
登記は裏切らない
その点、登記は違う。登記は日々、確実に俺に連絡してくる。内容がどうあれ、俺に向けて送られた「通知」には違いない。
通知の主役はもう決まっている
登記情報提供サービスの律儀さ
まるで、毎週届くサザエさんのエンディングのように、いつも時間どおりにやってくる。日曜の夕方みたいな虚しさを伴って。
時間も空気も読まない誠実さ
法務局の営業時間外？関係ない。通知は無慈悲に届く。しかも複数。
「どうせまた登記だろ」と思いながらもタップ
わかっていても、タップしてしまう。クセになってる。
スマホ画面に映る孤独の象徴
SNSのアイコンは沈黙のまま
Facebookは思い出を勝手に蘇らせてくれるが、それも昔の話だ。
唯一の活動は法務局
いま、最も連絡を取り合っているのは、法務局関係者だと断言できる。
メッセージじゃなくて案件です
そして、その内容に心は動かない。けれど、確かに“俺あて”なのだ。
サトウさんとの淡々としたやり取り
感情のない会話が逆に安心
「またですね」
「またですね」
もはや漫才のボケとツッコミのような、登記あるあるの応酬。
「人間より登記が優秀ですね」
サトウさんの口癖だ。俺も否定できない。
俺たちはもう悟ってる
人付き合いの通知より、登記の通知の方が正確で、ブレがない。
そして、時にややこしい。
昔はLINEが鳴るのが嬉しかった
野球部時代のグループLINE
「お前、まだ独身なん？」
そんな軽口すら今となっては恋しい。
今は誰もボールを投げてこない
俺のスマホに飛んでくるのは、打ち返しようのない登記情報だけ。
送信者 法務局 通知種別 登記情報
打席に立つ間もなく、黙って受け取る日々。
登記通知に癒やされる悲しい現実
せめてタイトルくらい優しくしてほしい
「登記が完了しました」ではなく、「お疲れさまでした」と言ってほしい。
「登記がありました」→「お疲れさまです」へ
UI改善してくれ、法務局。
気の利く登記はまだ存在しない
AIよりも堅い通知、けれど妙に誠実なその存在に、少しだけ救われている。
他人の登記が日々のリズムを作る
生きてる実感は他人の不動産で
誰かの住宅ローン、誰かの相続、誰かの離婚。
俺の生活は、他人の人生でできている。
人の人生を俯瞰し続ける職業
探偵漫画のモブキャラみたいなポジションだ。
俺の人生は置き去りのまま
主役ではない。ずっと裏方だ。まるでサザエさんの三河屋さんのように。
通知に名前があるとちょっとだけうれしい
見知らぬ氏名に勝手に親近感
「田中真紀子様」などと出ると、なんとなく人間味を感じてしまう。
「この人 結婚かな 相続かな」
ストーリーを想像する自分がいる。暇じゃないのに。
妄想でつなぐ人間関係
この職業の悪い癖だ。
それでもやめられない通知の確認
もしかしたら今日は違うかもしれない
そう思ってしまうあたり、まだ俺も捨てたもんじゃないのか。
サトウさんの「淡い期待ですね」
的確すぎて返す言葉がない。
やれやれ、、、また登記だったよ
そして俺はまた、静かにスマホを伏せる。
こうして、俺の通知欄は今日もまた、誰かの人生の証拠で満たされていく。
登記の通知ばかりが、俺を確かに生きていると教えてくれる。
