ひとりで食べるランチがやたらと心にしみる日
静かすぎる昼休みの時間
「シンドウ先生、お昼行ってきますね!」
事務員のサトウさんが明るい声で事務所を後にした。俺は一人、デスクの上のコンビニ弁当とにらめっこだ。チンされたカレーの香りが狭い事務所にむなしく漂う。
箸を持つ手が止まったまま、ふとテレビのない壁をぼんやりと見つめる。まるでサザエさんのエンディングで、家族がみんなごはんを囲んでいるのに、自分だけ一人アナゴさん状態。
やれやれ、、、こんな昼休みがもう何年続いてるんだろうな。
サトウさんは今日も外食
彼女はたぶん近所のカフェでオムライスでも食べている。あの明るさなら、きっと店員とも笑顔で会話してるに違いない。
「ランチプレートひとつください!あと、ミニデザートつけてください!」なんてね。
その一方、俺はレジ袋のカサカサ音すら話し相手。まるで探偵漫画に出てくる孤独な私立探偵だ。冷めかけたコロッケにかじりつきながら、誰にも見破られないように心の寂しさを隠している。
ランチはひとりが効率的という罠
誰ともしゃべらず、誰のペースにも合わせず食べられる。そんな「ひとりランチは気楽で効率的」なんて言葉、どこかのビジネス書にでも載ってたっけ。
スマホを見ながら黙って咀嚼するこの時間が、どれだけ虚しいか。SNSには誰かの手料理の写真。コメントには「美味しかった〜♡」の文字。
俺の画面は無音。通知もゼロ。一度はフォローした料理アカウントも、最近は見る気になれない。
あの日の部活仲間と飯を食った日々
高校時代、野球部の部室でみんなと食ったあの弁当。喋らなくても安心できたあの空気。
弁当箱のふたが「カパッ」と開く音が、今思えばなんてあったかかったことか。白米にソースが染みたトンカツが、あの頃は世界一だった。
口に入れるたび、「ウマいな」「あー、もう部活だるいな」とか言い合ってた。今の俺にそのだるさはないけど、代わりに静かすぎる。
やれやれそんな俺も今は司法書士
クライアントの相続手続き。朝から遺言書の確認と登記申請で目も肩もガチガチ。
昼になっても切り替えが効かない。サンドイッチをかじりながらも、登記原因の日付が頭から離れない。
事務所の壁時計が「カチカチ」と音を立てる。その音だけが、この空間の生きた気配。
やれやれ、、、せめて誰か、昼休みだけでも「ただの人」として扱ってくれないもんかね。