婚姻届より登記申請が詳しいという話
登記は何がそんなに詳しいのか
司法書士として生きて二十余年、もう驚かないつもりでいたが、先日ひさびさに度肝を抜かれた。婚姻届を提出したという依頼人が、その控えを見せながら一言。「これで済むんですね、簡単でした!」
…いや、ちょっと待ってくれ。その紙、名前と生年月日と印だけじゃないか。住所の番地も雑だし、添付書類も気持ち程度。それでいいのか、日本の婚姻制度。
記載事項の多さにゲンナリする日々
登記申請に慣れてる身からすると、あの簡略さはもはやホラーだ。登記であれば土地の地番ひとつ取っても、2階の1号室と1階の101号室を区別するために、図面とにらめっこしながら小一時間悩むのが日常茶飯事なのに。
住所一つでも数回確認する世界
区画整理が入っていれば旧地番との照合も必要。依頼人に確認を取ろうにも、「昔は田んぼだったからなあ」で終わってしまう。こちとら戸籍から住民票、課税証明書までフルコースで読み込んでいるというのに。
間違い一文字で補正命令の恐怖
「山田」を「山本」と誤記しただけで、補正命令。しかもこの訂正、速やかに応じないと却下。愛の告白は曖昧でも成立するが、登記申請は一文字違いで撃沈する。
婚姻届のアバウトさに戸惑う司法書士
私の人生で婚姻届に触れた機会は数少ない。せいぜい友人の付き添いくらいだ。その時も驚いた。証人欄に「サザエさん」と「波平」とふざけた名前を書きかけてた男を、市役所の職員が「これじゃダメですよ~」と笑って返した。…これが法治国家の婚姻手続きか。
証人欄の軽さにびっくりする
法定相続情報証明制度の添付書類には涙が出るほど苦しめられたのに、婚姻届には第三者の証言が「署名だけ」で済むって…いっそ羨ましい。
印鑑なくてもいいってどういうこと
印鑑不要の届出が増えている昨今、登記の世界では未だに朱肉文化が根強く生きている。印影が薄いと補正。濃いと疑われる。もうどうしろと。
添付書類も少なすぎて逆に不安
登記では十枚超えが普通。対して婚姻届の添付書類はたったの一、二枚。いや、そっちのほうが人生の一大事じゃないのか?
恋愛と登記の共通点を無理やり探してみた
無理やりにでも共通点を見つけようとしたが、唯一見つけたのは「どちらもタイミングが命」ということくらいだった。
どちらもタイミングが命
登記は期日を逃せば順位が変わる。恋愛もプロポーズのタイミングを間違えれば、すべてがパー。そう考えると…いや、やっぱり違うな。
提出する勇気が必要なところだけ似てる
恋愛は勇気、登記も勇気。だが、私は婚姻届を出したことがない。いつも提出するのは書類だけ。自分の人生の手続きは、ずっと未記入のままだ。
結婚歴ゼロ登記歴無数の私の主張
不動産登記の経験は数千件。結婚の経験はゼロ件。やれやれ、、、司法書士としては成功しているのかもしれないが、人間として何かを取りこぼしている気がしないでもない。
やれやれと言いたくなる瞬間
依頼人の「婚姻届は簡単だった~」という笑顔を見たとき、何とも言えぬやるせなさがこみ上げた。こちとら、法務局で補正三連発くらって帰ってきたその足でその話を聞いたのだ。
法務局と区役所の温度差
法務局では一字一句が勝負。区役所では「ま、いいですよ」で通ることもある。この温度差が、日本社会の縮図のように思えてならない。
愛の重みより登記識別情報の方が重い
少なくとも紙の厚みだけは、登記識別情報の方が重い。愛が重いかどうかは、経験者に聞いてくれ。
サトウさんに聞かれた一言で気づいたこと
「先生って婚姻届出したことあります?」 サトウさんが何気なく投げかけたその質問に、私は思わず言葉に詰まった。
答えられなかった45歳独身男
「いや…まあ、登記の方が詳しいからな…」と苦し紛れに答えた私を見て、サトウさんは少し笑った。
その笑顔が、どこか姉さん女房系探偵ヒロインに見えたのは、疲れていたせいだろう。
やれやれ、、、本当に私は書類のことしか知らないらしい。