玄関で息を整えたら謎が動き出す朝
玄関での深呼吸は日課になった
朝の静寂に包まれた玄関で、俺はいつものように一度深く息を吸い込む。吐いて、吸って、もう一度。まるで戦場に出る前の兵士のように。いや、現実はただの司法書士だ。しかも地方でひっそりとやってる、地味なほうの部類の。
「やれやれ、、、」と心の中で呟く。今日もまた、地味で複雑な手続きが俺を待っている。そんな朝、ポストに見慣れない封筒が入っていた。
出勤前の静寂に潜む違和感
その封筒には差出人の名前がなく、宛名は達筆な筆文字で「シンドウ司法書士殿」。筆跡からして、年配の女性かもしれない。中には古びた地図と一枚の便箋。「この地にて、かつての秘密が再び動き出します」
まるでルパン三世の予告状か。俺の頭の中では、次元が「野暮用ができた」なんて言いながら帽子をかぶるシーンが再生された。
郵便受けの中の一通の封筒
司法書士をしていると、時々こういう意味の分からない手紙が来る。たいていは近所のご老人のいたずらか、認知症が進んだ方の迷い文。でも今回は何かが違った。妙に胸騒ぎがするのだ。俺はその地図を鞄に忍ばせて、いつもより少し早めに事務所に向かった。
差出人不明の依頼と手書きの地図
出勤途中、昔の野球部の監督が言っていた「違和感には必ず理由がある」という言葉が脳裏に浮かぶ。監督は寡黙だったが、言うときは言った。打席で感じる一瞬のずれ。それと同じようなものを、あの地図に感じた。
司法書士の一日は書類と電話に埋もれる
事務所に着くと、サトウさんがいつも通り淡々と仕事をこなしていた。彼女は頭が切れるだけでなく、何かに気づいたときの目の動きが鋭い。俺の鞄の中の封筒を見て、即座に反応した。
サトウさんの鋭い一言が糸口になる
「それ、あの火事のあった町内の地図ですね」
彼女の言葉に俺は背筋が伸びた。五年前、謎の失火で全焼した空き家。相続関係が複雑すぎて、登記の相談も一度だけ来ていたことを思い出した。
相続登記の相談に潜むもう一つの顔
火災の後、相続人が急に姿を消した。登記手続きも途中で放棄。何かが隠されていたのは確かだ。その誰かが今になって、俺を使って何かを明らかにしようとしているのか?
名前の一致が導いた違和感
封筒に書かれていた「朝霧」という姓が、かつてその空き家に住んでいた老人の名と一致する。俺の頭の中で点と点が、ゆっくりと線を結びはじめた。
誰かが嘘をついている
地図の場所にある公民館跡を訪れると、誰もいないはずの空間に、誰かの気配があった。中年の男が一人、俺に声をかけてきた。「あんたがシンドウさんか。やっと来たな。」
戸籍に記された不自然な養子縁組
男は、かつて火事を起こしたとされる家の次男だという。戸籍上では養子縁組されたことになっていたが、実際には養子に入った覚えもなく、署名も偽造だったらしい。つまり、何者かが相続のために書類をねじ曲げた。
元野球部の直感が告げる決め球の時
「これは偽造された委任状がカギになる」
俺は直感的にそう感じた。調べる価値はある。少なくとも、火事の裏にあった家族の争いと、謎の地図はつながっている。今こそ、決め球を投げるときだ。
古びた公民館で交錯する真実と嘘
公民館の押し入れから出てきた一冊の古いノート。それには、父親の死後に交わされた密談の内容が手書きで記録されていた。真相は、長男による遺産の独占工作。火事も保険金目的の可能性が高い。
依頼人の言葉と本当の動機
差出人は長男に反発して姿を消していた末弟だった。正当な相続の機会を奪われた無念を、ようやく俺に託してきたのだ。
シンドウの推理とサトウさんの手際
サトウさんの助けで、戸籍と登記、そして保険金の受取情報まで整理が進んだ。証拠は揃った。あとは冷静に整理して法的に詰めていくだけ。推理漫画ではないが、地味な勝利だ。
謎が解けた後の静かな帰り道
夕暮れ、事務所のシャッターを下ろし、俺は深く息を吸った。サザエさんのエンディングみたいに、家々に灯りが灯る道を歩く。俺に家族はいないが、この町の平穏が少し戻った気がした。
明日もまた玄関で深呼吸をしてから
次の日の朝、また玄関で深呼吸をする。
「やれやれ、、、今日も紙と格闘か」
でも、昨日よりほんの少し、胸を張ってドアを開ける気がした。