無難に生きる男が最後に笑った日

無難に生きる男が最後に笑った日

無難に生きる男が最後に笑った日

朝の報告書と笑われる記憶

「所長、昨日の登記データ、また一桁ズレてましたよ」
朝イチで飛び込んできたサトウさんの声に、コーヒーを吹きそうになった。
やれやれ、、、今日も平和とは言い難い始まりだ。

サトウさんの冷静な指摘と僕の無難な返事

「でもまあ、致命傷じゃないから大丈夫ですよ。訂正は済んでます」
「そ、そうか……ありがとう」
つい無難な返ししかできない自分に、また小さくため息。
まるで波平さんがマスオさんに「またかい!」とツッコんでるみたいだ。

「やれやれ、、、」から始まる1日

40代になっても、朝のスタートは常に「やれやれ、、、」から。
元野球部だった頃の、あのガッツはどこへ消えたのか。

昔笑われたあの日が頭をよぎる

中学の学芸会。無理して主役をやって、セリフを噛んで大爆笑されたあの夜。
あの日以来、僕は「笑われないこと」だけを優先するようになった。

依頼人の不審な態度と小さな違和感

午前中に来た依頼人、無口で目を合わせない。
土地の名義変更と言うには、少し急ぎすぎているようにも見えた。

無難な対応が生んだ見落とし

「わかりました。必要書類は揃っていますので、こちらで進めます」
そう言ったものの、胸のどこかにひっかかる感覚。
だが「変だ」と言って笑われるのが怖くて、言葉を飲み込んだ。

司法書士としての勘が鈍るとき

事務所の空気は快適。ミスも少ない。
でも、それは波風立てないように動いてきただけだったのかもしれない。

サトウさんの「これ変ですよ」の一言

「所長、この書類、固定資産税の納付証明書が去年のままですよ」
彼女の目は鋭い。まるで怪盗キッドがカードを投げるときのように。

笑われるのが怖い男の決断

「……もう一度、依頼人に確認してみる」
それは僕にしては珍しい、踏み込んだ行動だった。

サトウさんの見立てと証拠探し

「たぶん、本当の所有者じゃないと思います」
事務員というより探偵。名探偵コナンの灰原哀ばりの推理力に脱帽した。

僕の中の「野球部魂」が目を覚ます

無難じゃなくても、正しいことをしよう。
昔、逆転満塁ホームランを打ったあのときのように。

勇気を出して踏み込んだ先にあった真実

再確認の電話で、相手は慌てていた。やはり成りすましだったのだ。
法務局と警察へ連絡。事なきを得た。

事件の核心と逆転の一手

偽造された委任状、急に売却しようとする土地、焦る依頼人。
全てが繋がった。

無難に見える書類の裏に隠された罠

書類の形式は完璧だった。だからこそ誰も疑わなかった。
でも、それが一番危ない。

司法書士だから気づけた矛盾点

押印の微妙なズレ。印影の濃さ。
それはまさに、地味だけどプロしか気づけない違和感だった。

「笑われてもいい」そう思えた瞬間

「やっぱり確認してよかったですね」
「うん……笑われてもいいから、もう見て見ぬふりはやめるよ」

笑いの向こう側にある本当の自分

事件は一件落着。だが、それより大きな変化が自分の中にあった。

サトウさんの「ちょっとは見直しましたよ」

照れくさくて笑うと、サトウさんが意外にも笑ってくれた。

帰り道にこぼれた独り言

夜道、自転車をこぎながらふとつぶやいた。
「やれやれ、、、今日は俺も少しだけ主役だったかもな」

「やれやれ、、、でもまあ悪くない一日だった」

司法書士って地味だ。でも、誰かの未来を守る仕事だ。
そして今日、僕は少しだけ「笑われるのを怖がらない男」になれた気がした。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓